マスク氏の場合はこれに加え、2021年5月に米コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」に司会者(ホスト)として出演した際、「私はアスペルガー症候群(現在は自閉スペクトラム症=ASDと呼ばれる)を持つ最初の司会者だ。少なくともそう公言した最初の司会者だ」と公表して世間を驚かせた。

 ASDの人は、相手の意図をくみ取るなどの社会性コミュニケーションが得意ではないとされる一方で、興味を持った物事をトコトン突き詰める集中力を持つ傾向があるとも言われる。

 22年のスピーチイベント「TED」でマスク氏はこう振り返っている。

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「相手の言ったことを額面通りに受け取る傾向があった。でも後で、その認識が間違っていたと分かる。みんなは、必ずしも伝えたいことをそのまま口にしているわけではないのだと理解するまで、しばらくかかった」

 あまり知られていないが、マスク氏は02年、1人目の妻ジャスティンさんとの間に生まれた長男ネバダ君を、生後わずか10週で亡くしている。この個人的な悲劇が、マスク氏の北極星をより強固なものにした可能性は十分にある。

北極星へと続く起業の連鎖

 マスク氏の起業家としての軌跡は、売却資金を次の夢に注ぎ込む連鎖だ。1995年に弟キンバル氏とオンライン出版ソフト開発会社「Zip2」を立ち上げ、99年にコンパックに売却。そこで得た資金でオンライン決済「Xドットコム」を設立し、後のペイパルとなる会社との合併を経て、その会社がイーベイに買収されたことでおよそ1億8000万ドルを手にした。この資金を元手に、2002年にスペースXを設立し、04年にはテスラへの出資を決めた。技術があれば起業できる。大手に売却すれば、次の夢に投資できる―この論理を、マスク氏は一貫して実践してきた。

©moodboard/イメージマート

 だが、道は平坦ではなかった。スペースXは06年の初号機打ち上げから3回連続で失敗。テスラも量産体制に入れず、08年には両社が同時に倒産寸前に追い込まれた。「08年12月24日午後6時。資金を調達できたのは、この日、この時間までというギリギリの時刻だった」―マスク氏は後にこう振り返っている。手元資金は残り数千万ドル。どちらか一方を生かす選択肢もあったが、マスク氏は両方とも見捨てなかった。