DOGEという実験
マスク氏と政治の関係が変化したのは24年後半だ。マスク氏の専用機がフロリダ州パームビーチのトランプ氏の邸宅「マール・ア・ラゴ」へ向かう頻度が急増した。そして、25年1月のトランプ大統領の就任式を経て、マスク氏はDOGEの特別政府職員に就任した。
「最大限うまくいけばの話だが」とマスク氏が前置きして掲げた目標は、2兆ドルの歳出削減だった。DOGEが送り込んだメンバーの顔ぶれは、マスク帝国そのもの。スペースX、テスラ、Xで働いた経験を持つエンジニアが目立ち、19~25歳の若者が財務省の決済システムへのアクセスを許可されるケースもあった。省の職員から「DOGEキッズ」と揶揄されたほどだ。
真の狙いはコスト削減にとどまらなかった。
社会で革新が生まれる仕組みを研究する金沢工業大学教授の野村恭彦氏は「マスク氏が狙うのは『行政のハッシュタグ化』だ」と指摘する。国民一人ひとりの行政情報をデジタルデータで管理し、Xのハッシュタグのように自動で集約・処理する―既存の行政業務を根本から作り直す、究極のデジタル政府構想だ。
だが数字は厳しい現実を突きつけた。DOGEは当初の予定通り、26年7月4日の米国独立記念日をもって活動を終えた。達成した節約額が図表6-02だ。
約束した2兆ドルの節約額に対し、DOGE公式発表の節約額は2150億ドル。さらに米政治メディア『ポリティコ(Politico)』による第三者検証では、確認できた契約節約額は約14億ドルにとどまった。同期間に国債は増加を続けている。壮大な実験は、志とかけ離れた結果に終わった。
支持から憎悪へ
マスク氏はDOGEを正式に離脱した25年5月よりも前から、その代償を払っていた。テスラ車が抗議者に燃やされ、販売店前でデモが繰り広げられた。スペースXの進出で自宅を手放したマリア・ポインターさんも、怒りをあらわにした一人だ。
「故郷のアラスカで連邦政府からの様々な支援金が打ち切られている。億万長者のイーロンには虐げられている人の気持ちは分からない」
かつてマスク氏を好きだった人たちが、いつの間にか彼を非難する側に回っていた。ファンとアンチの境界線が、政治という舞台の上でかき消されていったのだ。
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喪失を力に変えてきた男は、支持者を失うという“新たな喪失”からも、再び立ち上がれるのか。この続きは『データで徹底解剖 イーロン・マスク帝国』(日経BP)よりお読みください。
