では、マスク氏はなぜ何度、倒れても立ち上がれるのか。クーパー教授はこう分析する。

「起業家はすでに若い頃に何かを失っている。だから、これ以上失うものは何もないという感覚があり、普通の人よりはるかに大きなリスクを取れる」

 さらに、逆境から這い上がる鍵として教授が挙げるのが「レジリエンス」だ。「失敗や環境の変化に柔軟に対応する力を持ち、目的意識を持つこと。マスク氏はその両方を備えている」。幼少期の喪失体験が、皮肉にもリスクへの耐性と折れない精神を鍛え上げたと見ることができる。

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 マスク氏の頭の中は至極シンプルだ。面白くないと思えば相手に「つまらない」と告げて場を凍らせるし、面白ければ名もなき青年でもトコトン付き合う。はた目には天使と悪魔が共存しているように見えるが、ただそれだけのことだ。

 では、そんな男が、なぜ政治という舞台に踏み込んでいったのか。

トランプ氏との蜜月と離反――「どちらでもない」国民が求めたもの

 ニューヨーク支局に赴任した19年、筆者が最初に驚いたのは、米国社会に漂う底知れない閉塞感だった。米国では二大政党制(二党制)が敷かれている。共和党か民主党かで、大統領選前になると家族や友人関係すら壊しかねないほど議論が白熱する。銃の所持を認めるか否か、中絶を合法とするか否か、移民を受け入れるか否か―こうした問いに対し、共和党と民主党はほぼ正反対の立場を取る。どちらかを選べば、もう一方の価値観を否定することになる。グレーゾーンは基本的に許されない。

 一方で、共和党でも民主党でもない人たちも、思いの外、多かった。彼らが口をそろえるのは、「どちらの政治家も信用できない」という言葉だった。

 この不信感がどこから来るのかを理解するには、米国の二党制の歴史を知る必要がある。