二大政党制の土壌

 米国の二党制の亀裂は、1850年代の「奴隷制度を受け入れるか否か」という問いに端を発する。奴隷貿易で富を築いた南部の商人は継続を主張し、制度に反対する北部の勢力と対立して南北戦争に発展した。奴隷制度に反対する勢力を中心に結成されたのが共和党で、国家予算をできるだけ小さく抑えて国民一人ひとりの判断や経済活動に委ねる「小さな政府」を信条とする礎を築いた。つまり、もともと共和党は奴隷制度反対の側で支持層には黒人など有色人種が含まれた。

 その後、1930年代の世界恐慌下、民主党のルーズベルト大統領のニューディール政策が黒人層の支持を集めて黒人の影響力が増した。50年代に公民権運動が起き、64年に民主党のジョンソン大統領が公民権法に署名したことで、黒人票が一気に民主党へ流れた。80 年代以降は中南米系移民が増加し、移民受け入れを支持する民主党にその票も集中するようになった。

 白人支持だけでは足りないと考えた共和党の一部が2013年、民主党と組んで移民受け入れ法案を推進した。上院を通過して下院で廃案に終わったが、この動きに白人支持者が猛反発した。この流れは16年、「メキシコ国境に壁を建設する」と訴えたトランプ氏の大統領選勝利につながっている。歴史は、奴隷制度や移民受け入れなどを巡る分断が米国の成り立ちそのものに深く刻まれていることを示している。

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 問題は制度にも潜む。イエール大学のイアン・シャピロ教授は、米国の選挙制度が抱える構造的な欠陥を長年指摘してきた。最大の問題は、大統領選の候補を決める予備選の投票率が極めて低い点だ。「16年の共和党予備選で投票したのは、米国の全有権者のうちわずか5%程度だった。その結果、選ばれたのがトランプ氏だ」と21年の取材時に話していた。予備選では選挙に熱心な極右・極左の有権者が多く投票するため、国民全体の民意が反映されにくい。必然的に「必ずしも民意を反映していない『弱い大統領』」が生まれる構造だ。

 こうした閉塞感の中で、マスク氏は「どちらでもない人たち」の期待を一身に集める存在として浮上する。既存の政治家とは異なる、腐敗した政府をテクノロジーで刷新できる人間だと彼らの目には映った。前出のクーパー教授は、マスク氏とトランプ氏の違いをこう分析する。「トランプ氏は自分のため。スポットライトさえ当たれば何でもいい。マスク氏は違う。何かを達成しようとしている」