将棋棋士の藤井聡太七段がまた新たな記録を打ち立てた。12月12日の銀河戦で阿部健治郎七段に勝利し、プロデビューからの公式戦通算100勝を達成した。達成時の年齢16歳4ヵ月、勝率0.847(100勝18敗)、四段昇段からの日数はいずれも史上最年少、最高勝率、最速の記録である。

2018年3月15日、順位戦C級2組での対三枚堂達也六段戦 ©相崎修司

将棋界は高勝率を単純には評価しない

 過去の記録を調べてみると、100勝達成時に勝率8割を維持していたのは大山康晴十五世名人と中原誠十六世名人の2人しかいない。あの羽生善治竜王ですら、通算勝率8割はそう長く維持できなかった。時代に名を遺す一流棋士でも、8割はおろか、7割を維持することですら大変なのがわかる。

©文藝春秋

 ただ、将棋界は高勝率を単純には評価しない。その勝率をどのような舞台で挙げたかという点に視線が向くからだ。

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 それについて極端な考え方をしてみる。8割を維持するには常に4勝1敗ペースという計算になるが、デビューしたばかりの新鋭が、全棋戦で4勝1敗だとどうなるか。まず、リーグ棋戦である順位戦ではよほど運がよくない限り昇級には結びつかない。

 他のトーナメント棋戦でも挑戦はもちろん、上位進出も難しいだろう。トーナメント棋戦なのだから1敗したら終わりなので当然である。結果として次期のシード権もおぼつかないことになる。

高勝率を具体的にどのような結果に結びつけるか

 そのことが何を意味するか。「強い相手と戦わないなら高勝率は当たり前」ということになるのだ。満遍なく勝つだけではなく、どこかで爆発的に勝ち、上位に進出しなければ評価されない。

 現在の視点では信じ難い話だが、若かりし頃の羽生竜王がある棋戦のベスト4~8あたりで敗戦したとき、「羽生は率こそ高いが勝負弱い」などと言われたことがあるという。高勝率を具体的にどのような結果に結びつけるか、ということが大事なのだ。

デビュー翌年、当時16歳だった羽生善治竜王 ©文藝春秋

 この点でも大山、中原、羽生の3名は文句なしである。戦前デビューの大山は現在と比較すると棋戦が圧倒的に少なかったので、100勝時点で形に残る実績はない。しかし、100勝を達成した年度は、のちに名人挑戦を果たしている。挑戦を決めたのが「高野山の決戦」として知られる、兄弟子・升田幸三との死闘だ。