米国とイスラエルによる大規模奇襲攻撃で始まったイラン戦争も、緒戦こそ、強大な軍事力を誇る米国が圧倒したが、その後はイランが、「ドローンなどの安価で大量の兵器」と「ホルムズ海峡封鎖」という「非対称戦略」でトランプ大統領を追い詰めて徐々に形勢を逆転させ、イランに圧倒的に有利な「14項目の覚書」の締結に至った。
これまで独自の分析で数々の予測を的中させてきたトッド氏が、イランの「勝利」を起点に、これから起こる“世界のリスク”を予測した。(通訳=大野舞)
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「理性的な独裁」と「非合理的なリベラル」
現在、地に足が着いた長期的な視点から、自らの国益に沿った戦略的思考にもとづいて合理的に振る舞い、その言動が予測可能で信頼できるのは、イランやロシアや中国といった「権威主義体制の国家」の方です。
一方、近視眼的で、戦略的思考を欠き、自らの国益に反する場合もそのことに無自覚で、忙しなく非合理的に動き回り、その言動が予測不可能で信頼できないのは、「リベラル」を自称してきた米国と欧州の方です。
これは究極のパラドクスで、要するに、理性的であるのは「独裁者」の方で、「リベラルであるはずの指導者」の方が思慮を欠き、日々、気まぐれに意見を変え、欧州の指導層が自国民を苦しめ、米国が自分の同盟国を破壊しているのは、まるでSF小説の世界です。いま両陣営が激突している「第三次世界大戦」を目の前にして、私は「独裁国家がどうか冷静でいてくれることを願おう」と、何とも奇妙な心理状況にあります。
このSFのような世界の中心にいるのは、トランプ氏です。彼が世界最強国の大統領であること自体が、SF作家ですら想像できないほど奇怪な現実なのです。
西洋諸国の指導層の言動が予測不可能であるなかでも、私が歴史家として予測できるのは、次の2点です。
第一に、「戦争は不可避だ」というナラティブを世界に流布させている米国は、実際に世界各地で戦争を引き起こそうとすること(イランの次にキューバに何かを仕掛けるかもしれません。ベネズエラと同じく米国本土の目と鼻の先にあるキューバは、イランよりもオペレーションがはるかに容易だからです)。
第二に、局所的な最適化に固執するあまり大局を見失いがちなドイツは、歴史の重大な岐路に立たされた際、「良い選択肢」と「悪い選択肢」のうち、往々にして「悪い選択肢」を選びがちであること。
この二つの要因が結びつくと、世界にとって最悪の結果がもたらされる危険があります。





