気が付くと、司の顔が目の前に
何が起こったのか、気が付くと、司の顔が目の前にあり、僕はベッドに押し倒されたような形になっていた。顔と顔の距離は10センチくらいだろうか。僕の視界いっぱいに映る司の顔は、今まで見たことのない表情で、じっと僕の目を覗き込んでいる。
司が見ている僕の目には、何が映ってしまっているだろう。全て見透かされているような気がして恐怖を感じたが、司と密着している心地よさも、同時に感じていた。心臓の鼓動がお互いに伝わって、僕の司への想いが、司の身体にも流れていくような感じがしていた。僕が目を瞑れば司はキスをしてくるだろう、そんな雰囲気だ。このまま司と抱きしめあって、キスをして、ずっと司を好きだったと言ってしまえたら、どんなに良いだろうか……。でもその後はどうなるのだろう……。
もし、これが何かの冗談で、司は僕を好きじゃなくて、振られてしまったら、僕は男好きの変態だと、司にバレてしまうだけではないか。それが司から秀美に伝わって、いずれは学校中の噂になるだろう。七崎はやっぱりオカマで、男好きの変態で、司に告って振られた男なのだと。そうなれば僕は、生きていられる自信が無い。
「気持ち悪いなぁ!」
僕は力いっぱい司を払いのけた。
「秀美がいなくて寂しいからって、僕を襲わないでよ」
冗談っぽく言ったつもりだったが、司は笑わなかった。少し気まずい空気のなか、僕は「トイレ貸して」と言ってトイレに入った。僕は胸に手を当てて、大きく息を吸い込んだ。トイレの空気を。
これでよかったのだと、自分に言い聞かせた。きっと、司も冗談で僕に跨ってきただけだ。それに、司を好きな気持ちは、何かの間違いなんだ。僕は男なんだから、男を好きになるのは絶対に変だし、今だけなんだ。だからこれでよかったんだ……。
呼吸が整い、ズボンを下ろすと、パンツの中の様子がおかしい。どうやら、司と至近距離で見つめ合ったことで、僕のパンツはグチョグチョになってしまったようだ。
パンツの濡れ具合が、どれだけ司のことを好きかを、伝えているようだった。
写真=平松市聖/文藝春秋