書籍「僕が夫に出会うまで

 

2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。

幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京、カミングアウト……。僕が夫に出会うまでを振り返り、何を考え、何を感じて生きてきたのかを綴った「僕が夫に出会うまで」が現在発売中です。

 

文春オンラインでは中学時代まで(#1#9)と、母親へのカミングアウト(#28#30)を特別公開中。

 

自分がゲイであることを認めた瞬間から,彼の人生は大きく動いていきます。さまざまな出会いや別れ、喜び、悲しみ、怒り──幾多の困難を乗り越えて、生涯のパートナーに出会い、そして二人は大きな決断を下す。

 

物語の続きは、ぜひ書籍でお楽しみください。

 僕は、カラオケ号泣事件後、二人から距離を置くようにしていた。三人でいると、自分がおかしくなってしまいそうだ。

 

 僕と秀美が崖にぶら下がっている。崖から落ちたら死ぬ。

 司はどっちか一人しか助けられない。

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 僕は司の友達として、「二人で幸せになれよ」とか言って、自ら落ちるべきなのかもしれないが、絶対嫌だ。足を使って、司の見えない所で、秀美を蹴り落としたい。

 もし司が秀美を助けて、僕が崖から落ちることになっても、「幸せになれよ」なんて言わない。きっと僕は「二人とも、呪うからね」と言って落ちていくだろう。

 日々、こんな妄想を膨らませていた、卒業間近のある日だった。

久しぶりに入った司の部屋で

「七崎、今日ヒマ? うちに遊びに来ない?」

 司に声をかけられるのは久しぶりな気がした。

「ヒマだけど。秀美もいるの?」

 僕は遠慮がちに聞いた。

「秀美は別の約束があって今日はだめなんだって」

 秀美に断られたから僕を誘いにきたのは明白だが、嬉しい。

「そうなんだ。じゃあお邪魔する」

 

 司の部屋に入るのも久しぶりだった。司の制服と同じ匂いがする部屋だ。司はブレザーを脱ぎ、ハンガーにかけた。司はいつもキチンとしている。本も、CDも、本棚にキッチリ収まっている。

 僕は制服のまま、司のベッドに仰向けになって天井を眺めていた。するといきなり、司が僕にまたがり、覆いかぶさってきたのだ。