1967年作品(90分)/東映/4500円(税抜)/レンタルあり

 東映は東西に二つの撮影所を今でも有している、日本でただ一つの映画会社だ。

 西は京都の太秦にあり、東は東京の大泉にある。そして、かつては双方で撮られる映画の作風は大きく異なっていた。太秦ではマキノ雅弘・光雄兄弟やその異母兄弟である松田定次といった、時代劇を戦前から撮ってきたマキノ一族が礎を作った影響で、いかに観客に楽しんでもらうかを第一に作ってきた。

 一方の大泉はその正反対。戦後になってアメリカ主導のレッドパージ(共産主義者追放)により各社を追われた今井正、家城巳代治といった左翼系の監督たちを招き入れた影響で、現代的な社会派作品が主流となった。前回述べたように、先日亡くなった佐藤純彌監督の若手時代に人間の暗部をえぐる社会派作品が多かったのは、当人の作家性だけでなく、若手時代を過ごした大泉の、撮影所自体のこうした反権力の土壌も影響していたのである。

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 今回取り上げる佐藤監督の『続組織暴力』も、大泉作品ならではの一本だ。

 一九六〇年代に東映が東西ともにヤクザ映画一色になった際にも、社会派の風潮が色濃い大泉では任侠道や勧善懲悪を描くだけでなく、利権や汚職などの現代の社会問題が盛り込まれた作品が撮られていた。本作は、そうした社会派現代ヤクザ映画の代表作だ。タイトルに「続」とついてはいるが、独立した作品である。

 物語は銀座を舞台に、のし上がろうとする一匹狼のヤクザ・兵頭(渡辺文雄)、そうはさせまいとする大組織、そして彼らを取り締まろうとする北川警部(丹波哲郎)の三者の闘いが描かれる。これだけなら、よくあるヤクザ映画の構図だ。が、本作は一味違う。この抗争はヤクザや警察だけに留まらず、政界の疑獄事件をも巻き込んでいくのである。

 兵頭が与党の大物・大和田(柳永二郎)をバックにつけたことで、北川は手出しできなくなった。そして大和田は、兵頭を使って対抗勢力による道路買収にまつわる汚職の証拠を掴み、金を脅しとる。

 観客の求め通りなら最後に鶴田浩二や高倉健のような「正義のヤクザ」がドスで大和田と兵頭を殺して終わるところだが、本作は社会派。そんなヒーローはどこにもいない。

 観客の憎悪の対象であるはずの兵頭は口封じのために無惨に殺され、北川は大和田に迫るが軽くあしらわれ、車に乗り込んでうなだれるしかない。ラストの丹波の空しい徒労感に満ちた表情からは、作り手たちの巨悪へのやり場のない怒りが感じ取れる。

 大泉が反権力の砦であり、佐藤純彌もそこで闘っていたことを示す作品である。

泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと

春日 太一

文藝春秋

2018年12月12日 発売