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連載春日太一の木曜邦画劇場

女性二人、プライド賭け闘う姿は美しく気高い!――春日太一の木曜邦画劇場

『劇場版 エースをねらえ!』

2019/04/02
1979年作品(88分)/バンダイナムコアーツ/4800円(税抜)

 少し前になるが、『女王陛下のお気に入り』という新作洋画を観た。英国の宮廷を舞台に女王の寵愛をめぐって二人の女性が火花を散らす、という内容だ。観終えて、自然と口をついて出た言葉は「ああ、面白かった――」だった。

 かなり以前からそうなのだが、たくましく誇り高い女性たちが、その誇りをかけて本気で闘う様が好きでたまらない。その強く美しい姿がとても尊く思えてくるのである。

 今回取り上げるアニメ映画『劇場版 エースをねらえ!』は、まさにそんな魅力の凝縮された作品といえる。

 舞台となるのは、テニスの名門で知られる西高校。一年生のテニス部員・岡ひろみは基礎もよく知らない新人の一人に過ぎなかった。が、新任のコーチ・宗方仁はそんな岡の潜在能力に気づき、個別に徹底した猛特訓を施していく。

 そして、この物語にはヒロインがもう一人いる。それが竜崎麗香。その華麗なプレーにより「お蝶夫人」と呼ばれる、テニス部の絶対的なエースである。ひろみも彼女に憧れて入部していた。宗方はお蝶夫人のダブルスのパートナーにひろみを指名する。

 テニスにこれまでの人生を賭けてきたお蝶夫人からすると、それまで歯牙にもかけなかった素人同然の新入部員が抜擢を受ける状況に納得がいかない。怒りや屈辱を抱えているであろうにもかかわらず、それを抑えて超然と澄ます、凜とした様は最高に美しい。

 原作漫画やテレビアニメでそれなりの時間をかけて描いてきた内容を本作はわずか八十八分に凝縮している。そのため物語の焦点はひろみとお蝶夫人のドラマに絞られ、しかもそれを出﨑統監督が派手な劇的演出で盛り上げる。強い陰影のコントラスト、極端なアップ、ストップモーション、遠近感を狂わせる望遠、いきなり上空を飛ぶヘリコプター――。だから観ていて最後までワクワクが止まらない。

 ひろみは宗方の指導の下で才能を開花させる。お蝶夫人もひろみを認めるようになるが、それでもなお高い壁として立ちはだかる。ラスト、両者はついに対決の時を迎える。全日本選抜の代表一枠を巡る試合なのだが、それは闘いを飾る付け足しでしかない。そこにあるのは、天才同士のプライドを賭けた闘争だけだ。

 ここでの出﨑演出が素晴らしい。自信を深めていくひろみ、それを全力で受け止めるお蝶夫人。二人が打ち合う時、背景は消える。ストップモーションで挿入される二人の鬼気迫る表情。この世にこの二人しかいない異空間のような世界で、互いの全てをぶつけ合う。とにかく神々しい。

 闘う女性の美しさを突きつめた、ロマンに溢れた作品だ。

泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと

春日 太一

文藝春秋

2018年12月12日 発売

出典元

奔放プリンセス佳子さまの乱全内幕

2019年4月4日号

2019年3月28日 発売

特別定価440円(税込)