愛のお父さんは、会社の経営者で社会的に成功している人だが、嫌味がなく、僕らのような子供にも目線を合わせて会話をしてくれる人だ。昔からそうだった。高校の同級生がよく、愛のお父さんに、悩みを相談していたのを思い出した。
僕は、今回の帰省で親にカミングアウトをしようか悩んでいることを、愛のお父さんに話した。
「昔、ななぴぃに聞いたら、違うって言ったの、覚えてる? 高校生のとき」
愛のお父さんは言った。
「え、僕、覚えてない!」
「ななぴぃは男が好きなの? って聞いたら、ななぴぃは、違うって言ってたんだよ、昔は」
「言ってた言ってた。私たち、ななぴぃはまだ隠したいんだね、って話してたのよね」
愛のお母さんが言った。
「僕自身、気づいていたけど、認めたくなかったんだと思います。あの頃はね……」
「そうだよな、そう思ってたよ。それが、今ではここまで堂々と生きてて! おじさん、嬉しいんだよ!」
「ありがとうございます。でも親に言ったら悩ませてしまうと思うんです。だから、どうしたらいいかわからない!」
「子供の事で悩むのが親の趣味みたいなモン」
「親が悩むのは当たり前、それでいいんだよ。子供の事で悩むのが親の務めだし、趣味みたいなモンなんだよ。子供がどうなっても悩む人は悩むんだよ」
「でも、言わなければ、親が悩まなくて済むでしょ? 言いたいけど、言いたいからって親を傷つけて良い訳じゃない。そんなの自己中でしょ? 親が死ぬまで、黙っていた方がいいのかもしれない。所詮、親だって他人なんだし……」
僕は自分が言われてきたことを、そのまま自分の意見のように愛のお父さんに話した。愛のお父さんは、少しショックを受けたようだった。
「俺がななぴぃの親だったら、絶対言って欲しいよ。親は他人じゃない、親だよ!」
愛のお父さんは、どうにか親の気持ちを伝えたいようだった。