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――最後に、久保先生の今後の目標を教えていただけますか? 若い方々が続々とタイトルを獲っていく中で、40代のタイトル保持者を望む声も大きいと思いますが。

「そうですね。最近、地元の同級生と話したりしてると、違う世界でみんな頑張ってるんで。自分も負けてられないなと……。

 全然将棋とは関係ないんですけど、僕、ゴルフが好きで」

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――はい?

「このあいだタイガー・ウッズが14年ぶりにタイトルを取り返したんです。

 すごい勢いでジャック・ニクラウスの記録をどんどん抜いていくと思ったんですけど、止まっちゃってて。でもまた復活してっていう……その姿を見て、自分も頑張ろうって思いました。その気持ちを忘れずに、また新しいものを見せていけたらと思います。

 タイガー・ウッズ、同級生なんです(笑)」

久保が差し出してくれた色紙には……

 1時間近くに及んだインタビューを関西人らしく笑いで締めて、写真撮影に入ろうとした時だった。

 久保ははにかみながら、鞄の中から一枚の色紙を取り出す。

「よかったら、これを……」

 書いたばかりとわかる、筆の跡がまだ瑞々しく残る色紙。私のためにわざわざ用意してくれていたのだ。いや、きっと取材を受ける時にはいつも、こうした気遣いを欠かさないのだろう。

 控え目な様子で久保が差し出してくれた色紙には、こう揮毫されていた。それは初めて見る言葉だった。

『和静』

©白鳥士郎

久保はもう迷わない。揺るがない

「令和の『和』を入れて。まだそんなにたくさん書いてないんですけど」

 なごやかで、落ち着いている様を意味する言葉。

「前後際断」の次に久保が至った境地が、そこにあった。

 開かない扉を前にしたとき、それでも進もうとする者は少ない。

 私たちはすぐに、鍵のかかっていない別の扉を選んでしまう。

©白鳥士郎

 開かない扉を前にしたとき、その扉を開ける鍵があると信じて何年も探すことができる者は、限りなく少ない。

 立石さんのように、最初に選んだ鍵とは別の鍵が正解の場合もあるだろう。

 久保もまた、自分の持っていない別の鍵を求めて炎に炙られ、自己啓発系の本を読み漁った。居飛車を指そうとしたことすらあった。

 しかし久保はもう迷わない。揺るがない。

 久保にとっては最初に掴んだ「振り飛車」という鍵こそが、求めていた最後の鍵なのだから。

(追記)
 このインタビューの4日後となる2019年5月14日、王位戦挑戦者決定リーグにおいて羽生善治九段が12年ぶりに先手四間飛車を採用。千田翔太七段を相手に、勝利を収めた。

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