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まるで「福男競争」みたいだった「大垣ダッシュ」の思い出

「大垣夜行」の名前の由来は、その電車が「快速・大垣行き」だから。「大垣夜行」と「ムーンライトながら」によって大垣は知名度を上げたと言ってもいい。

 いまは社会的認知も高まった「eスポーツ」の黎明期、2005年に大垣駅のそばのソフトピアジャパン センタービルで、eスポーツの国際大会「ACON5」の日本国内予選が開催されて、当時eスポーツライターだった私は「ムーンライトながら91号」で現地入りしている。大垣市は、日本ではまだ少ない「eスポーツ国際大会予選開催地」のひとつだ。

 大垣の思い出として「大垣ダッシュ」がある。ムーンライトながらの大垣駅到着後、その先へ行く電車に乗り換えるために走ること。乗り継ぎ時間がわずか5分で、隣のプラットホームから発車する。しかも乗り継ぐ電車は4両編成と短い。座りたいなら階段を一段抜かしで駆け上がり、跨線橋を渡って一段抜かしで階段を駆け下りたものだった。その勢い、まるで正月にどこかのお寺でやっている「福男競争」だ。

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 私は「大垣ではダッシュするもの」という因習にとらわれていた。私も若い頃は走った。急いで先発の列車に乗り継ぐ必要はなくても、イベントとして走りたかった。集団心理である。しかしいまの私は昭和生まれの中高年である。もうダッシュする気力がない。だから1本遅らせて、6時20分発の列車に乗る予定にした。案の定、ムーンライトながらが大垣駅に近づくと、気の早い人々がドアに集まり、ドアが開くと一斉に走って行った。

乗り継ぎ時間は8分に延長された

 私は彼らを見送り、のんびりとプラットホームを歩いた。私が乗る列車はムーンライトながらが到着したプラットホームから出発するようだ。冷房が効いた待合室もある。跨線橋を渡る必要はない。ここでじっと待っていればいい。

 一方、大垣ダッシュした人々が乗ったはずの列車がなかなか動かない。ちょっと様子を見に行こうと階段を上ろうとしたらエスカレーターがある。こりゃラクになったな。隣のプラットホームに行き、車内を覗いてみたら4人掛けの席で知人がひとり旅。あなたもながらで、と挨拶して、良かったらどうぞと席を勧められ、座ってしばらくするとドアが閉まった。5時53分。あれあれ、大垣ダッシュをしないで乗り継げた。しかも座れた。あっけないやら、ありがたいやら。このあと、予定の電車が1本ずつ繰り上がって助かった。

「大垣ダッシュ」はムーンライトながらに乗り慣れた旅人の作法だった。しかしそれは昨今のデリケートな社会認識からみれば危険行為といえる。そこで対策が取られたようだ。乗り継ぎ時間は8分に延長された。乗り継ぎ時間が3分間延長されただけで移動に余裕が生まれる。乗り継ぐ米原行きの電車はクロスシートの211系で、8両編成となって2倍の定員だ。しかも跨線橋の階段にはエスカレーターが設置されている。

ムーンライトながら(左)と8分後に発車する米原行き

 大垣ダッシュが解消されたこともあり「ムーンライトながら」の良さを再確認した。東京駅を深夜に出発すると、名古屋着は5時9分。大垣と米原で乗り継いで、京都に7時半頃、大阪に8時頃に着いて、朝から行動できる。