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「振り飛車って冬の時代なの?」20代イケメン将棋棋士2人の答えとは

黒沢怜生五段×都成竜馬五段 20代若手強豪対談#3

小島 渉 2019/09/13

振り飛車党の今のエース戦法は?

――10年前から見て、振り飛車党のエース戦法の移り変わりはどうですか。

黒沢 先手番だと石田流と中飛車、後手番はゴキゲン中飛車と角交換振り飛車。それは、当時もいまも変わっていません。でも、居飛車側の対策が進み、ここ数年はノーマルな振り飛車(角道を止める昔ながらの振り飛車で、2000年代は減少していた)をやらざるをえなくなってきました。

 

――振り飛車への対策が進んだ背景は?

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黒沢 やっぱり、ソフトの影響もありますかね。

都成 ずっと互角で振り飛車もやれると思っていた局面が、ソフトに数字で不利と出され、具体的な手順を示されますから。

黒沢 持久戦より、急戦の対策がきつくなってきた印象です。石田流だと、ここ1、2年は右四間飛車の急戦(A、B図)が強敵です。

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【A図】初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩と進んだ局面。先手は▲7八飛と三間飛車にし、石田流と呼ばれる形を目指す出だしだ。
【B図】A図から後手が右四間飛車に構えたところ。攻めの主砲である飛車を6筋に移動させて、△6五歩の仕掛けを狙う。攻撃な戦法で、アマチュアに愛好家が多い。
右四間飛車は従来からある戦法だったが、俗に「エルモ囲い」と呼ばれる囲いとの組み合わせがアイデアだ。「エルモ囲い」の名は、将棋ソフト「elmo」(開発者は瀧澤誠氏。2017年に第27回世界コンピュータ将棋選手権で優勝)が多用することからついたという。

――急戦は同じ形になりやすく、ソフトで研究すればハメやすいですもんね。

黒沢 先手は石田流じゃなくて、初手▲7八飛(三間飛車)や先手中飛車が増えています。初手▲7八飛は△8四歩を突かせるのが大きい(C図、D図)。これなら石田流と違って、飛車先を省略されたまま右四間飛車にされないですから。初手から大変な時代になりました。

【C図】初手▲7八飛で、B図と飛車の振り場所は同じ。黒沢五段の「初手▲7八飛は△8四歩を突かせるのが大きい」は、C図から△8四歩とすれば、B図に組みにくいのを評価している。
【D図】C図からの進行例で、角道を止めることから俗に「ノーマル三間飛車」と呼ばれる。後手が飛車の前の歩を伸ばしているので、B図のように8三歩型の右四間飛車にできない。

「ソフトもいってたし」を持ち出されると……(笑)

――ソフトの研究を警戒しながら、作戦を決めないといけない時代?

黒沢 そうです。でも、振り飛車がやることは、そんなに変わっていない。初手で変化はあれど、感覚の違いはない。居飛車が変わってきたので、それに対応しているのが現状でしょう。例えば、居飛車側から端攻めする組み立てが増えました。

――端攻めは終盤の手筋。それを急戦の研究に組み込み、一気にリードを奪う作戦が増えたんですね。

都成 振り飛車で先後の差は大きい。後手だとゴキゲン中飛車がきつくなってきました。

 

――ゴキゲン中飛車に対し、居飛車は超速▲3七銀の急戦がほとんどです。急戦で変化の余地をなくして、「私がいいでしょう。ソフトもいってたし」と攻めてこられたら、きついですよね。

都成 ソフトもいってたし。それを持ち出されると……(笑)。

黒沢 まあ、いわれるのも慣れてきましたけど(笑)。

――相手が使っていると聞いただけでも、研究にハマりそうで嫌ですよねぇ。

都成 そうなんですよ! 奨励会三段もソフトを使っていて、右見ても左見ても、同じ局面とかあるらしい。でも、プロだと半分ぐらいは使っていないと思います。