『続 デザイナー渋井直人の休日』の刊行を記念して、原作者の渋谷直角とドラマ版(2019年1-4月テレビ東京で放映)で渋井直人役をつとめた光石研の夢のトークが実現した。チケットは即完売。当日は、アシスタントの杉浦ヒロシ役の岡山天音も急きょ参戦し、会場は興奮の渦に。「誰も俺を観てない」と原作者が少々スネながら(失礼!)のスタートだったが、渋井直人愛あふれる空間、笑いが絶えず、あっという間に2時間が過ぎていった。司会は、渋谷と旧知の仲の小柳帝。カルチャー好きの4人らしいエピソードも数々飛び出したが、ここではダイジェストをご紹介。
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おじさんデザイナーのインナースペースに入り込みたい
——まず、『デザイナー渋井直人の休日』を描いたきっかけから、聞きたいのですが。
渋谷 僕は中目黒に23年くらい住んでいるんですが、住み始めた当時は代官山のおまけのような、いなたい街だったんです。そこからカフェブームがあり、再開発されていまはEXILE一色に (笑)。「中目黒に住んでいる」というとたいてい、「中目黒! あのおしゃれな(笑)!」と言われて、ちょっとカチンとくるんです。お前に中目黒の何がわかるのか、と。これまだ前振りなんですけど 、ごめんなさいね。
会場 (笑)。
渋谷 それから、僕はマガジンハウスという出版社で長いことライターをしていたんですが、それを話すと他社の編集者やライターさんから「マガジンハウスって、みんな黒のタートルネックを着て、ワイン飲みながら落語を聴いてるんでしょ?」みたいなことを半笑いで言われる。たしかにあそこは、そういうところがある(笑)。でも、僕はマガジンハウスのいいところも知っているので、やっぱり外から上っ張りだけで言われると、カチンとくるんです。漫画に話を戻すと、立ち飲みのおしゃれなワインバーにいるおじさんデザイナーを、お店の外から「ああいうおじさんってこうだよね」というのは嫌なんです。そのお店に自分もちゃんと入って、おじさんと同じように飲みながら、ワイン美味しいな、って思いながら、でも軽く傷ついたり何か恥ずかしくなったりっていう体験をしたい。お店に入らないで「こうでしょ」って描くのは、中目黒を「オシャレ〜!」って笑うのと一緒だから。対象にどんどん自分を同化させていきながら、感じたことを描きたいんです。
光石・岡山 (神妙な面持ちで聞いている)。
渋谷 対象を意地悪な目線でツッコんでいただいて、的な仕事のオファーはたくさん来るんだけど、僕はぜんぶ断ってて。ガワで分析して時代と照らしてどうこうっていう批評じゃなく、同化していってそのひと個人の内面なり、人間の性質とか弱さみたいなとこに感情移入していきたくて。そこが僕のマンガはちょっとわかりにくいのかなあ、と感じていたので、もっと自分のことを描いているように思わせたほうがいいのかなと、自分の名前に近づけた主人公の漫画を描き始めました。