また、運動当初の6月9日の大規模デモの後に、香港政府がそれを無視して逃亡犯条例改正案の成立を急いだことで、「平和的なデモだけでは民意を届けられない」とする考えが説得力を持ちました。デモ隊全体として「不譴責(互いを批判しない)」「不割席(仲間割れしない)」というスローガンがあることも、勇武派が認められる理由になっています。
9月時点の香港中文大学の世論調査では、市民の約56%は抗議の過激化に理解を示しています。
そういう社会のムードに、先進国社会に特有の閉塞感を覚えていた、10代の若者たちが乗る形で暴力的な行為を起こしています。政府と警察が悪いという大義名分があることで、一部の若者の暴徒化に歯止めがかからなくなっていると言えるでしょう。
Q2. デモ隊はなんで戦っているの?
――そもそもの話として、香港のデモ隊はなぜ戦っているんでしょうか?
A2. 当初は逃亡犯条例改正案への反対が理由です。これは一国二制度のもとで中国内地とは別の法体系が存在している(独立した法体系がある)香港から、一部の犯罪の容疑者の中国への引き渡しを認める内容でした。
動機はさまざまですが、香港の民主化や中国からの自立を目指す人たちだけでなく、「なんとなく危ない」と感じた一般人や親中派層まで幅広く反対運動に賛成。結果、6月9日に主催者発表で100万人規模の平和的な反対デモが起きたのですが、行政長官の林鄭月娥はそれを無視します。
香港政府が、6月12日に抗議者たちを催涙弾で排除する強硬姿勢を見せたこともあって、6月16日には香港史上最大の200万人規模のデモが起きました。実はこの前日、林鄭月娥は改正案を棚上げする方針を示していますが、デモ参加者は完全撤回にこだわり運動を継続しました。
――でも、9月4日に林鄭月娥は条例改正案を撤回しませんでしたか? なのになぜまだ続いているんでしょうか?
7月に入るとデモ参加者の間で条例改正案があまり重視されなくなり、香港警察の暴力行為に対する独立調査委員会の設置などを含めた「五大要求」の貫徹がデモの目標に変わったからです。9月4日に改正案が撤回されたのは遅すぎました。
ただし「五大要求」には、逮捕者の釈放や、香港基本法(憲法に相当)のもとでは事実上不可能な行政長官の普通選挙による選出も含まれています。どちらも香港政府がまず飲めない条件なので、デモの終わりは見えないわけです。