香港の抗議運動は混迷の度を増している。10月4日には行政長官(大統領に相当)に非常権限を認める緊急状況規則条例(緊急法)が発動され、無許可デモの参加者への覆面禁止法が制定された。それ以降の香港は戒厳令に近い状態にあると言っていい。

 対して、多くの市民が街に繰り出して平和的な抗議活動を実施するいっぽう、一部はより激しい闘争方針を取り、8月末ごろから駅や列車車両、彼らが「中国に近い」と判断した店舗などへの落書きや破壊、放火を広範におこなうようになった。

 とはいえ、香港デモは一般の日本人には理解しにくい。私はデモ初期の6月15~20日と、8月末~10月初頭に現地入りし、警官に撃たれたり催涙弾が直撃したりデモ隊に尋問されたりと大変な目に遭っているが、それでも情勢を追いかけるのは大変だ。

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 だが、日本の隣国で発生した大事件に対して、わからないままでいたくない人も多いはずだ。今回は編集部の質問に答えるQ&A形式で、香港デモのそもそもの事情と現状について、外部の取材者の立場からの「日本一わかりやすい解説」を試みてみよう。(全2回/#2へ続く

デモ隊を追いかける香港警察(10月1日撮影) ©共同通信社

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Q1. 香港デモが混乱したのは誰のせい?

――最近、日本では暴力的な抗議の様子を伝える報道も増えています。当初は平和的な傾向が強かったと思いますが、なぜ「暴徒化」しているのでしょうか。

A1. 最大の要因は香港政府の高圧的な姿勢と、香港警察の暴力のエスカレートでしょう。端的な例を挙げれば、抗議運動が本格化した6月なかばから8月4日までの約2ヶ月間に発射された催涙弾はおよそ1000発ですが、10月1日に香港全域で大規模な衝突が発生した際は1日で1400発が使われました。警察側の鎮圧は8月半ばと9月末にそれぞれ激化した印象です。

 自分の目で見た例でも、9月29日午後に銅鑼湾の平和的な和理非(合法的な抗議をおこなう穏健派)のデモの集合現場に、警官隊が平気で催涙弾を打ち込んでいました。無許可デモだったとはいえ、抱っこひもで子どもを抱えた母親もいる集団にこの仕打ちです。また、現場は繁華街なので通行人も多数巻き添えになっていました。

 9月末からは警察側の内規が変わり、18歳と14歳の少年に実弾を発砲して重傷を負わせています。後述のようにデモ隊側の暴力も目に余るものがありますが、当事者の多くが未成年者であるのは警察側も知っているはずで、実弾発砲の責任は重い。後述のように、デモの動機はすでに警察への怒りが大きな要因になっていますが、それも頷ける話です。

 

――なるほど、やっぱり香港政府と香港警察が悪いんですね。

 いや、デモ隊側にも要因があります。5年前に起きた雨傘革命は、穏健派と強硬派の分裂で瓦解した面があります。この強硬派の流れをくむ人たちは、過去に何度か過激な街頭闘争をおこなっていますが、支持は広がりませんでした。しかし今回、香港政府や香港警察があまりに市民の怒りを集めたことで、勇武派(警官との衝突を辞さない勢力)の闘争方針にお墨付きが与えられた面があります。