1ページ目から読む
6/6ページ目

 香港のデモ隊には文宣(プロパガンダ)部隊がおり、SNSなどでデモ隊に有利な情報操作を日本語でおこなう集団がいます。後述しますが、日本でしばしばメディアに登場する周庭(アグネス・チョウ)さんもこれに該当する。また、デモ隊の文宣作戦に組み込まれたり感化されていたりする日本人のインフルエンサーも存在します。

 行き過ぎた行為について、デマを上書きすることで事実関係を曖昧にし、イメージの低下を防ぐのが彼らの仕事です。たとえば、7月に親中派議員の何君尭の親の墓が荒らされた際には「あれは何議員から報酬をもらえなかったヤクザがやった」、10月上旬に地下鉄の観塘駅がひどく破壊されたときには「あれは警察がやった」といった主張を拡散するわけです。

9月29日の日中におこなわれた平和的な「反専制体制デモ」。日本を含む大量の西側国旗が登場し、国際社会からの支持獲得を訴えた。写真は路上に貼られた習近平の顔写真を踏むデモ参加者。軽装備の子どもも参加しているが、やがて警察側から催涙弾が打ち込まれた ©安田峰俊

 香港デモは次々と事件が起きます。なので、デモ隊に不祥事があればひとまずデマを流すことで真偽不明の状態に変え、世間の関心を次の話題に移らせることで真相をウヤムヤにする――。というプロパガンダのノウハウも、なかば確立しています。

ADVERTISEMENT

 私は香港デモの動機は理解する反面で、現場の様子からは常に5~10%くらいは陰険で胡散臭い雰囲気を感じ続けているのですが、その一因となっているのが、前述の「傘隠し」行動やこうしたフェイク・ニュース作戦です。

 仲間のいきすぎた行為に内部でブレーキをかけず、隠蔽したりデマを流したりして世界の人々(日本人を含む)を騙すことに注力する。また、デモ隊に批判的なメディアには「中国の回し者」として糾弾する宣伝をさらにおこなう。もちろん政府権力に立ち向かう上では、きれいごとだけでは戦えないのですが、彼らにこうした部分があることはやはり指摘せざるを得ないところです。

Q6. 周庭さんはデモの「リーダー」か?

――周庭さんは日本のメディアでは香港デモのリーダーとして取り上げられることも多いようですが、違うんですか?

A6. 違います。彼女は雨傘革命当時に運動を主導した学民思潮という学生運動グループの元広報担当者で、その後身団体の香港衆志のメンバーです。日本語ができることから、日本で「香港デモの顔」として知られていますが、今回のデモに対して指導的な立場ではありません。香港でも知名度はありますが、すくなくとも運動の面では一線の人ではないイメージです。

 今回の抗議運動での周庭さんの役割は、日本に対する文宣(プロパガンダ)です。デモ隊は今回、吉野家などの日系チェーンの店舗を多数破壊(後述)しているのですが、それが日本側に報じられたことで、香港の大規模掲示板であるLihkg.comでは「周庭を呼んでこい」「周庭に説明してもらおう」といった書き込みがいくつも見られたりもしました。

Telegramで使用できる周庭さんスタンプ。政治的な話はともかくとして、LINEでも使いたいので実装してほしい

 彼女は良くも悪くも広報の達人であって、「リーダー」ではありません。上記の吉野家襲撃の理由をTwitterで説明するなかで、店舗破壊を「ボイコット」と言い換えるなど、実態としてはデモ側の対日プロパガンダ戦略を実行するエースとして活動していると考えるべきでしょう。周庭さんは非常に優秀ですが、日本のメディアが彼女の言葉を無批判に流している現状は、ちょっと問題があるようにも感じます。

#2(Q7~Q12)へ続く

※最新刊『もっとさいはての中国』(小学館新書)発売中! 同書刊行イベント「中国ワンダーランドに魅せられて」(安田峰俊氏×星野博美氏対談)が10月13日に旭屋書店池袋店にて行われます。(詳細→https://www.asahiya.com/shopnews/) 

文藝春秋2019年11月号

※安田峰俊氏による、現地フルレポート「香港デモ『あさま山荘化』する若者たち」掲載!

 

文藝春秋

2019年10月10日 発売