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「デモ隊に中国スパイがいる?」「周庭さんがリーダー?」今さら聞けない“香港デモ入門・12のQ&A”

2019/10/10

genre : ニュース, 国際

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Q3. 中国共産党と戦う運動なの?

――デモ隊が戦う理由はそれだけでしょうか?

A3. 別の動機もあります。ひとつは、前述した警察側の暴力への強い怒り。もうひとつは民意を反映しない香港政府や、それを許す香港の体制自体への怒りでしょう。前線で戦っている中高生はさておき、デモを支持する世論の担い手である大人たちの怒りはこの点も大きいと思います。

 香港は1997年に中国に返還された際に民主化が約束されていたにもかかわらず、市民が行政長官を普通選挙で選べず、立法会議員(国会議員)選挙も充分に民意を反映できないシステムが続いています。いっぽう、香港市民は一国二制度のもとで、中国内地とは違い言論や集会(デモ)の自由は認められています。

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 為政者は必ずしも民意に沿って選ばれていないけれど、もともとは言論や平和的なデモを通じて要求を伝える仕組みがあった。ただ、中国の影響力が強まった2010年代に入ってそれが無視されることが増えた。不満が溜まっていたところへ、今回の逃亡犯条例改正案が持ち上がり、その後の政府側の傲慢な姿勢が怒りの火に油を注いだ形です。

10月上旬、デモ参加者らがネット上で配布した風刺画。当初は小さな炎だった条例改正案問題に、警察の強硬な鎮圧や緊急法適用といったガソリンをかけつづける林鄭月娥が描かれている。最後のコマでは「ネット規制」「戒厳令」「夜間外出禁止」「人民解放軍出動」といった新たなガソリン缶が見える

――中国共産党に立ち向かっている運動ではないのですか?

 日本の一部メディアやTwitterなどは香港デモを「反中国(中国共産党)の運動」という説明をしたがりますが、これは半分正解で半分間違いです。香港政府は北京の中央政府の強い影響下にあるとはいえ、市民の怒りの主眼は中央政府ではなく香港政府に向いています。

 変なたとえですが、1960年代の日本の安保闘争で「反米」が掲げられつつも、デモ隊が実際に怒る相手はあくまでも親米的な岸政権(当時)と日本政府だったのと、ちょっと似た構図です。傀儡を操る親玉ではなくて、あくまでも現地の政府への怒りが優越しているんです。