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「香港旅行は大丈夫?」「なぜ吉野家も標的に?」今さら聞けない“香港デモ入門・12のQ&A”

2019/10/10

genre : ニュース, 国際

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Q12. 日本にとってのリスクは?

――日系企業の襲撃や香港でのビジネス環境の悪化以外で、日本にとってのリスクは?

A12. 現場を見た上で私が懸念したのは、香港でおこなわれている、過激な反政府行動のノウハウの輸出です。匿名化されたチャットグループで組織された身元不明の遊撃部隊100人が、現代都市の特定エリアを一瞬のうちに破壊し尽くす……、という話は村上龍さんの小説みたいですが、香港ではすでに現実化しており、毎週末のようにおこなわれています。

 今回の香港デモに関心を持つ日本人は、普通の「香港好き」のほかに、左右の政治勢力や一部の宗教団体なども含まれています。可能性はまだそれほど高くないはずですが、香港デモで日々実験されている都市機能を効率的に破壊するノウハウや、現代の先進国の社会で実行可能な匿名性の強い反政府組織の作り方のノウハウが、日本の過激な勢力に流入することへの懸念くらいは持ってもいいかもしれません。

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――ほかに日本が香港デモから考えるべきことはありますか。

 今回の香港デモの背景には、ここ10年ほどで中国がナショナリスティックな色彩を強め、北京の中央政府が国民統合のモデルを押し付けようとした結果として生じたエラー……、という側面があります。事実、(他にも経済などの要因もありますが)香港の若い世代の間での対中国感情はここ10年間で一気に悪化しています。

8月31日、金鐘にある中国建国を祝う標語はデモ隊の手ではがされてしまった ©安田峰俊

 香港は19世紀前半から中国内地とは異なる歴史を歩んで、独自の文化を形成した地域なので、返還後20年以上を経た現在でも「北京の論理」「内地の論理」が通用しない部分が多いのですが、中央政府は「同じ中国人だから」と香港の統合を急ぎすぎました。香港デモのそもそもの理由である逃亡犯条例改正案問題も、林鄭月娥行政長官が「内地の論理」を過剰に忖度して、北京に気に入られそうな政策を通そうとしたことで生じたものです。

 日本はこの問題を他山の石にはできると思います。20世紀後半に祖国に返還されるまでは他の国の植民地や占領地で、内地とは異なる歴史・文化の伝統や現地の人たちの独自のアイデンティティがある地域――という点だと、たとえば沖縄がこれに該当するでしょう。「内地の論理」をもとに現地の独自性を無視したアプローチをやりすぎると、たとえ先進国水準の社会ですら反乱が起きるという実例は、現在の香港が証明しているのではないでしょうか。

#1(Q1~Q12)より続く

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文藝春秋2019年11月号

※安田峰俊氏による、現地フルレポート「香港デモ『あさま山荘化』する若者たち」掲載!

 

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