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携帯の電波は入らない、猿がお湯を舐めにくる……それでも浸かりたい“エクストリーム温泉”

携帯の電波は入らない、猿がお湯を舐めにくる……それでも浸かりたい“エクストリーム温泉”

白山麓の“エクストリーム温泉”その2

note

明治時代の宿帳には……

「私どもの先祖は明治2年に中宮温泉に入ってきて宿を始めたんだそうですけれども、これ明治の宿帳なんですわ」(西山さん)

 そう言って、西山さんは明治20年代から30年代の間のものだという宿帳を見せてくれる。身分や職業、住所などが書き込まれていて、県外からの客も散見される。当時は交通手段がなかったため、金沢から徒歩で、1泊挟んで訪れる客が多かったらしい。

「にしやま旅館」明治時代の宿帳

「昔は胃腸が治るまで、1週間、10日といたらしいです。春に来られて、秋に帰られる方も」(西山さん)

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 由緒正しい中宮温泉だが、令和の時代に入り、危機に瀕しているという。理由は、客の世代交代だ。

「湯治にきとった人らがだんだん高齢になって、来られなくなったり亡くなったりして、客足がバタバタっと減ったんですよ。湯治をしとった旅館はどうしても立ちいかなくなって、辞めざるを得なくなって」(西山さん)

5代目館主・西山◯◯さん

 以前は一帯に4軒の温泉宿が並んでいたが、今残っているのはにしやま旅館のみだ。

 苦労は絶えないが、なぜ続けることができたのか。

「うちの先祖が、いろんな災害があってもお店を守ってくれたというか。あとは何よりもやっぱり、温泉目当てできてくれるお客さんがあったさかいやろうな」(西山さん)

 西山さんにお話を伺った後、編集部のメンバーも温泉に浸かってみた。山の空気を感じながら浸かる露天風呂は、最高に気持ちがいい。内風呂はひのきの香りが素晴らしく、浸かっていて気持ちがほぐれていく。

「中宮温泉 にしやま旅館」露天風呂
「中宮温泉 にしやま旅館」内風呂

 宿が減り、いまや「お湯が余る」と西山さんは笑っていた。人間がいなくなっても、中宮温泉の湯は地域に注がれ続けるだろう。それでも温泉を必要とする客がいる限り、旅館を守っていきたいというのが、西山さんたちの思いだ。

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