文春オンライン

連載春日太一の木曜邦画劇場

登場人物全てがエロ一筋 ブッ飛んだアニメ映画!――春日太一の木曜邦画劇場

『ヤスジのポルノラマ やっちまえ!!』

2019/11/19
note
1971年作品(96分)/ディメンション/3800円(税抜)/レンタルあり

 かつての日本映画の隠れた名作・珍作・奇作を掘り起こすレーベル「DIG」からは、本連載との親和性の高さもあり新作が出る度にサンプルDVDを送ってもらってきた。折に触れて本連載でも取り上げさせてもらっている。

 中には、「お、ついにこれが出るのか!」という作品もあれば「え、こんなのも出すの?」という作品もある。で、今回取り上げるのは、「なんだこりゃ!」という作品だ。

 それが『ヤスジのポルノラマ やっちまえ!!』だ。谷岡ヤスジ原作のアニメ映画だ。

ADVERTISEMENT

 実は本作を筆者は観たことがなかった。とんでもない作品として噂には聞いていたが。それだけに、DVDが送られてきた時はビックリした。

 とにかく、ぶったまげた。九十六分間の上映時間、下ネタだけで展開されているのだ。

 主人公は、モテずに悶々としている若者・ブス夫。描かれているのは、この男のドスケベ一筋の生活だった。主人公だけではない。登場人物の全てがひたすらエロいことのみを考え、暮らしているのだ。

 その結果、服を着ている時の方がイレギュラーな、異常世界が繰り広げられることに。

 公園で下半身丸出しのまま逆立ちして男を誘惑する色情女、発情してそれに襲いかかる野良犬の集団――という冒頭からもうイカれている。

 次のシーンでは田舎から父親が上京してくるのだが、この父親が田舎から持ってきた大きな風呂敷包みに入った土産物は――なんと裸の女たち。父親はブス夫の家に着くや、この女たちを抱きまくる。

 そんな感じでブス夫の周囲では様々にブッ飛んだエロいシチュエーションが展開されるにもかかわらず、彼だけはその機会にありつけない。欲求不満が溜まる一方だ。夜の公園で空しく自慰行為に臨むくらいしかない。その様が、ギャグ漫画特有のデフォルメされたキャラクターや演出によって綴られていくものだから、おかしくもどこか切ない。

 これが中盤以降は一転、次々と上手いこといくことに。

 プロレスのリング上での試合をセックスのメタファーに使った三人のマダムとの情交シーンが延々と繰り広げられたり、昼休みに他の社員たちが屋上で特訓している間に女性社員に挑んだり、営業で行く先々のマダムとイイ関係になっていったり。

 で、終盤の展開がさらに無茶苦茶だ。新婚旅行先でブス夫が先輩と麻雀している間になぜか新婦は鶏と交わり、鶏と人間の合わさったモンスターのような子供が生まれ、しかもこの子供がエロ一筋。

 アバンギャルドという言葉すら生ぬるい、狂気だけに貫かれた世界。よくも、この時代にソフト化できたものだ。

登場人物全てがエロ一筋 ブッ飛んだアニメ映画!――春日太一の木曜邦画劇場

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー