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不登校になると「進学も就職も結婚もできない」は本当か?

著者は語る 『明るい不登校』(奥地圭子 著)

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『明るい不登校 創造性は「学校」外でひらく』(奥地圭子 著)

 今年10月に発表された文部科学省の統計によると、経済的理由・病気以外で年度間に30日以上、学校を欠席した「不登校」の児童生徒は全国で16万人を超えた。子供の数は減っているのに、不登校の子供は増えている――この現状にどう向き合えばよいか。フリースクールの草分け「東京シューレ」理事長で、『明るい不登校』を上梓した奥地圭子さんに話を聞いた。

「これまでは国の方針として、不登校の児童生徒に対して『学校復帰』を前提とした施策が行われてきました。しかし、2016年9月に文科省は『不登校は問題行動ではない』という通知を出しました。同年12月には普通教育機会確保法が成立。学校以外の多様な学び方に対する公的な後押しが、大きく前進しました。不登校をとりまく環境は、大きな転換点を迎えつつあります。ところが、それをご存知ない方が多いのも事実です。新しい時代に向けて、子供と学校の関係について考えてほしいと思い、本書を執筆しました」

 不登校の歴史は戦後、義務教育の実施と共にスタートする。長らく、学校に行けない/行かないのは、病気や怠けだとして“治療の対象”とされ、その原因は母親の養育態度と結びつけて考えられてきた。不登校を治して学校復帰させるという観点から、精神科病棟や矯正施設に送り込まれる子供もいたという。

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「高度成長期から高学歴社会化が進み、良い成績を取って小・中・高・大と進学し、良い会社に入ることが人生の幸せだという価値観が定着しました。だから、子供が学校に行かないと、親は慌てるし、登校を強制してしまう。むかしは不登校になると『進学も就職も結婚もできない』と言われていましたが、決してそんなことはありません。

 1984年から、不登校について学び合う『親の会』を定期的に開催しています。そこでは、不登校の子供を持つ親に悩みを話し合ってもらうのです。例えば、子供の昼夜逆転生活やゲーム依存を『うちの子だけが』と悲観していても、同じ経験をした家庭は案外たくさんあるものです。大切なのは孤立せず、情報を手に入れて、子供の立場で考えることです。

 日本における不登校の歴史には、様々な悲劇がありました。学校に行かないだけなのに、命を落とした子供もいました。不登校は病気ではありません。その子の“今”がそうなのだと考えて、成長支援をしていく必要があります」

奥地圭子さん

 今年、35年目を迎える東京シューレは首都圏の4箇所にあり、不登校の児童生徒約180人を受け入れている。2007年には東京シューレ葛飾中学校を開校。不登校経験があることが入学要件の私立中学校だ。本書では開校の経緯からカリキュラム、子供中心の学校運営まで詳しく紹介されている。

「フリースクールには学校で傷ついた子供たちが集まりますが、傷ついてからケアすることの繰り返しに疑問を抱いていました。学校の在り方と、子供の状況にミスマッチがあるのではないか、と。そこで、フリースクールの手法を活かした学校づくりに踏み出したのです。今は小学生、特に低学年の不登校が急増しているのが気がかりです。その現状を受け、来年春の開校を目指して小学校づくりにも取り組んでいる最中です」

 小誌記者が取材のために東京シューレを訪れると、玄関で会員の少年に遭遇。「奥地先生のこと、よく書いてくださいね」と無邪気に笑う姿を見て、『明るい不登校』というタイトルに納得するばかりだった。

おくちけいこ/1941年、東京都生まれ。横浜国立大学卒業後、小学校教諭を経て、フリースクール「東京シューレ」を開設。著書に『子どもをいちばん大切にする学校』『不登校という生き方』『フリースクールが「教育」を変える』など。

不登校になると「進学も就職も結婚もできない」は本当か?

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