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タイトル『橋を渡る』にこめた思いは?

――何が正しいのかは人によって違うのに、自分は絶対的に正しいと思っている人たちがいるから、ネットの炎上とか、ヘイトスピーチが起きてしまうのかもしれません。

吉田 結局声の大きい人が目立ちます。控えめな人はどんどんいないことにされてしまう。70年後に登場するある人たちについては、まさにそのイメージで書きました。この人たちの声は本当に小さいんだろうな、と。

――第4章はね、ちょっとね、海外の某小説を思い出したんですよ。

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吉田 クローンの話ですよね? 知ってはいましたが、読んでいないんですよ。むしろ山中伸弥さんの、iPS細胞から血液を作って……という話が頭にありました。ずっと前に雑誌の記事で読んで面白かったので、切り抜いて置いてあったんです。

――雑誌の切り抜きって、やるんですか。

吉田 たまに。でもスクラップするのではなく、そのページをビリッと切り取って置いておくだけです。でもそれは小説に使おうと思ってのことでなくて、ただ気になったものを取っておくだけ。iPS細胞の記事については、内容もさることながら、以前、山中さんにお会いしたことがあって、勝手に近しい気持ちになっていたのでつい破っておいたんです。

瀧井朝世

――その部分とは別に、70年後の人々の生活がどう変わっているのかも、興味深く読みましたよ。

吉田 たとえば、今から70年前の小説を読んでも、そこに出てくる人間そのものって、あまり変わっていないんですよ。なので、70年前も、70年後も、人間は人間として在るはずだという思いで書きました。未来を描く場合にSF的なセオリーというものがあることも知っていますけれど、まったく詳しくないので、そのあたりは勘弁してくださいと言いたい(笑)。

――実は未来は変えることができるかもしれないし、たぶん読者も未来は変えられるし、むしろ変えなくちゃいけないんじゃないかと思わせる展開になっていて、そこに希望が託されていると思いました。

吉田 自分も含め、誰でも「あの時、ああしておけばよかった」ということは言うけれど、「今、こうしよう」とはなかなか言わない。戦後70年のいろんな特集を見ていても、みんな「あの時」「あの時」「あの時」なんです。その流れの話でいうと、国を追われたユダヤ人にビザを渡した杉原千畝って、最近映画化もされてヒーロー扱いされていますよね。そこでふと、今もし、シリアなどの難民を受け入れましょうっていう杉原さんのような人が出てきた時、僕らはその人をどんな風に見るんだろうかと思うんです。

――タイトル『橋を渡る』にこめた思いは。

吉田 書き始めた時は日常にかかる小さな橋のつもりでしたが、最終的には70年後の未来と現在をつなぐ途轍もなく大きな橋になりましたね。

――時代と時代は点と点じゃなくて、線で結ばれているんだぞという。線にするのは自分たちなんだぞという。

吉田 本当にその通りです。その言葉、別のインタビューの時に使ってしまうかもしれません(笑)。