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史上4人目の「竜王・名人」豊島将之は、今年度の最優秀棋士に選ばれるのか

史上4人目の「竜王・名人」豊島将之は、今年度の最優秀棋士に選ばれるのか

棋界勢力図を分析すると……

2019/12/17
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名人戦では森内と羽生が常に極限の戦い

 将棋世界の2004年8月号で森内は、

〈大きな対局が次から次へと続き、一局一局に全力を尽くせたのが、良い結果となったようです。

 今まで三冠王を達成したのは歴史を作り上げてきた方ばかりですので、その先輩方に少しでも近づけるよう、これからも精進していきたいと思います。ありがとうございました〉

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 と語っている。

 その後、竜王は森内から奪取した渡辺が9連覇を果たし、史上初めて永世竜王の資格を得た。名人戦では森内と羽生が常に極限の戦いを繰り広げ、森内十八世名人、羽生十九世名人という2名の永世名人が誕生することになった。

 渡辺竜王の10連覇を阻む形で、自身2度目の竜王・名人となったのが森内である。2013年11月、第26期竜王戦で渡辺を4勝1敗で下し、以前の雪辱を果たした。43歳での竜王は当時の最年長記録(のちに羽生が47歳で獲得)で、その感想を求められると「自分ではまだ若いつもりなのですが」と答えて、場の空気が和んだ。続けて「読めなくなっている分は判断力や大局観でカバーするしかない」と語った。

©相崎修司

「渡辺明三冠は非常に充実した内容で指されていますので」

 そして今回の豊島である。本人は以前に「竜王を獲っても二冠に復帰するだけで、いまの勢力図ではトップではない」と語ったことがある。竜王奪取後に改めて将棋界の勢力図について問われると「(自身は)内容的にも際どい将棋が多く、偶然勝てているのか実力で勝てているのか、自分でも分からないところがあります。渡辺明三冠は非常に充実した内容で指されていますので、より一層頑張っていかないと厳しいかなと思っています」と語った。

 現在の棋界勢力図は豊島竜王・名人、渡辺三冠(棋王・王将・棋聖)、永瀬拓矢二冠(叡王・王座)、木村一基王位となっているが、この4名はそのまま第32期竜王戦本戦トーナメントのベスト4である。また現時点(2019年12月15日)での年度勝率1位は渡辺の27勝4敗、0.871だが、その4敗はすべて豊島がつけたものだ。一方で渡辺が棋聖を奪った相手が豊島ということもあり、この両者の戦いはますます熱を帯びていくだろう。

将棋の日in甲府での渡辺明三冠(中央右)と永瀬拓矢二冠(中央左) ©相崎修司

 そうなると年度替わりの4月から始まる名人戦で、豊島―渡辺戦が実現するかという点に注目が集まるが、その前の段階として、2019年度の最優秀棋士賞がどうなるかも気になる。

 最近、渡辺を取材した時に「現在の目標は勝率8割を維持すること」と語っていた。それを実現させれば年明けから始まる王将戦、棋王戦のいずれも防衛することはまず確実である。これは2019年度末の時点で豊島竜王・名人、渡辺三冠という状況が変わらないことを意味するが、年度が変わってすぐに行われる将棋大賞の選考会で、最優秀棋士賞に選ばれるのはどちらだろうか。