やっぱり棋士は、対局で強くなるんですよ
2007年、伊藤さんは25歳のときの三段リーグで13勝5敗の成績を上げ2度目の次点となり、プロデビューを果たした。同時に四段に昇段した2人は金井恒太六段と、豊島将之名人・竜王である。
通常三段リーグを通過して棋士になれるのは上位2人だが、次点となる3位を2度取れば、プロ入りすることができる。ただし、順位戦の参加資格はない「フリークラス」からの参入で、10年以内に規定の成績を上げなければ引退という厳しい決まりがある。
伊藤五段は、順位戦に参加する資格をプロ入りから4年7カ月後に得て、フリークラスを脱出している。
――フリークラスで戦うというのは、どういった感じですか?
伊藤 きついですよ。収入が少ないというのもありますけど、やはり対局が少ないのが辛い。やっぱり棋士は、対局で強くなるんですよ。対局に向けて対戦相手のことを勉強して、モチベーションを上げていく。こういうことの繰り返しで強くなるんです。順位戦がないと、年間で最低10局は違うので、これはなかなか辛かったです。ただ目標として、フリークラスを抜けるというのがありましたからね。本当は1、2年で上がれればよかったんですが……。
――4年7カ月は長かったですか。
伊藤 この世界、1年目よりも10年目のほうがきついんですよ。強くて若い人がどんどん入ってきますからね。だから、あのときが最後のチャンスだったんでしょうね。ただ、1、2年で上がっていたら、妻と出会っていないかもしれません……。だからいつが良かったのかは、わからないですけどね。
棋士と漫画家アシスタントで合コンしました
人間万事塞翁が馬。人にとって何が良いことかは、後になってみないとわからないというニュアンスで、伊藤さんがフリークラス時代を振り返っていたのが印象的だった。それだけ奥さんである嫁Pさんとの出会いは、とても大きなものだったのだろう。そんな嫁Pさんとの馴れ初めも聞いてみた。
――伊藤さんと奥様は、どういった縁で出会ったのですか?
嫁P 合コンです(笑)。
――そうなんですか(笑)。
嫁P 棋士5人と、漫画家アシスタント5人で合コンしました。飯島さん(栄治七段)がセッティングしてくださったんですよ。
実はそのあたりの事情が、少しばかり『将棋の渡辺くん 第4巻』(伊奈めぐみ/講談社)に出ている。もともと、伊藤さんが体調不良で友人たちとの予定に行けなくなり、飯島栄治七段に代打をお願いしたところ、その場で出会った女性と飯島さんが結婚。その恩返しの意味もあり、当時、将棋漫画の監修をしていた飯島さんが、棋士5人と、漫画家アシスタント5人の合コンを設定。そこで伊藤さんと嫁Pさんが出会って結婚に至っている。
伊藤 たまたま家が近かったんですよ。帰り一緒だったよね?
嫁P そう。帰り一緒でした。
――それはいつ頃の話ですか?
伊藤 僕が30歳くらいでしたね。
嫁P 女子は、全体的にもうちょっと上で。
――じゃあ、棋士とお姉さんチームの合コンですね。
伊藤 だから僕あまり興味なかったんですよ(笑)。
――ははは(笑)。それがちょうど、フリークラスから上がった頃ですか。
嫁P 合コンのとき「フリークラスから上がった」という話を聞いた記憶があります。
――いいことが重なった時期だったんですね。
伊藤 ちょっと調子に乗っていたんでしょうね。