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「津波太郎」と言われても離れることはできなかった――岩手・田老と津波の因縁

「津波太郎」と言われても離れることはできなかった――岩手・田老と津波の因縁

2020/03/03

genre : 読書, 歴史, 教育

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「海水が干きはじめたので、当所員も避難する」

 さらに20分後の午前10時25分、海面の観測に便利な見張所から、

「水が干けないで海面が上昇しはじめた」

 という第一報が入った。それは、津波の最初の前兆ともいえるものであった。これも赤沼山高台に立つ高い鉄塔の上に据えられた6個のスピーカーで全町に放送された。

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 その頃警察から津波警報発令の連絡が入ったが、すでに田老町は万全の態勢をとっていたのだ。

 午前10時28分、見張所から、

「海水が干きはじめたので、当所員も避難する」

 という第二報が入った。

 いよいよ津波襲来は確実となり、対策本部は緊張して一層厳重な監視をつづけた。そのうちに、沖合で海水が盛り上った。

「津波、津波、津波」2分後、電話は不通に

 対策本部は、午前10時30分津波来襲と断定、全町内に対しサイレンを吹鳴するとともに、

「津波、津波、津波」

 と、スピーカーで連呼した。

 2分後、電話不通となる。

 津波は、2メートルの波高で海岸に押し寄せたが、防潮堤はかたくそれを阻止、対策本部は岩手県知事に対し、

「午前11時現在、人的被害なし、その他の被害は目下調査中」

 と、第一報をつたえた。

 そのうちに被害状況が各所から入り、午前11時50分、港内外で漁船が漂流、うち1隻が転覆したことが判明し、県知事にその旨を報告した。

 また津波の高さは、午前10時に2.25メートル、港外流失船大型船1、小型船5、港内流失船小型船4を確認した。

 その後、海面の状況を注意していたが、次第におだやかとなり、午後5時宮古測候所と協議の結果、津波は終ったと判断し、全町民に対し「津波警報解除」を放送した。

 このように田老町の津波対策は秩序正しいものだが、他の市町村でもこれに準じた同じような対策が立てられている。