先崎学九段が「矢倉脇システムはどうですか」
脇八段は「元々、私のオリジナル戦法ではないので、受賞を知らされた時は驚きました。25年ほど前に、私が多く指していたので戦術本を書かないかという誘いがありまして、その書名を考えていた時に、先崎さん(学九段)から『矢倉脇システムはどうですか』と言われたのが、きっかけです」と語る。「もちろん成算があって始めた作戦ですが、まさかこれほど長く指されることになるとは、驚きです」とも。
脇システムは、自然に進めると初手からここまでかかる手数がちょうど40手になる。「以前行われていた、テレビ棋戦の早指し将棋選手権(2003年に休止)が、41手目を封じ手にするシステムだったので、そのための作戦でした」と明かす。
ところが、相手も対策を練っていたのだろうか、実は脇が早指し選手権で脇システムを指したことはあまり多くない。自身が準優勝を果たした1992年の第26回では8局中、ゼロである。決勝の相手だった羽生善治竜王(当時)も、珍しく振り飛車を採用した。裏を返せば、それだけ脇システムが優秀だったということだろう。
藤井の終盤力をもってしてもこのようなことが起こるのか
【名局賞】 第60期王位戦七番勝負第7局 豊島将之王位vs木村一基九段
【女流名局賞】 第9期リコー杯女流王座戦五番勝負第4局 里見香奈女流王座vs 西山朋佳女王・女流王将
【名局賞特別賞】 第69期大阪王将杯王将戦挑戦者決定リーグ 広瀬章人竜王vs藤井聡太七段
名局賞は木村新王位が誕生した一局だ。舞台背景もドラマチックであるが、対局の内容もお互いが得意とする角換わりで、双方の持ち味が存分に発揮された一局だったといえる。一局の将棋の結果が夜7時のニュースで速報されたというのも、相当に例がないことだっただろう。
「文春将棋」が主催した「観る将アワード」の名局賞部門でも、同じく王位戦第7局が選ばれた。ファンにとっても強く印象に残る一局だったようだ。
女流名局賞は里見―西山の頂上決戦。この一番を制した西山は女流三冠となり、女流四冠の里見と共に女流棋界を牽引する存在にもなった。その後、奨励会三段リーグでも、四段昇段へあと一歩まで迫ったのはご存知の通りだろう。新年度からはこの両者に、加藤桃子女流三段が女王と女流王位をかけて挑戦。二強に割って入ることが出来るか。
特別賞は、藤井が最年少タイトル挑戦まであと一歩まで迫った一戦。広瀬有利の展開から終盤で一失があって、逆転。しかし最後は秒読みに追われたこともあり、藤井が逃げ間違えてトン死してしまった。藤井の終盤力をもってしてもこのようなことが起こるのか、改めて勝負の怖さを知らしめた一局だった。
九死に一生を得た広瀬は渡辺王将に挑戦するも、3勝4敗で惜敗。直前の竜王失冠も含めて、悔しい1年となったが、新年度を迎えて、タイトル保持者4名の牙城を崩しに行く最有力候補であることは間違いない。
藤井の最年少タイトル獲得、羽生のタイトル獲得通算100期、西山の史上初となる女性棋士など、新年度の将棋界でも多くの快挙が期待されている。筆者も歴史的な一瞬を皆様に詳しくお伝えできればと思っている。