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クルド人なら誰もが知る「鍛冶屋のカワ」の伝説

 ワッカスさんに、クルドの人たちなら誰でも知っている「ヘシンワール・カワ(鍛冶屋のカワ)」なる伝説を教えてもらった。

 クルド人(メディア人)は初め、アッシリア帝国の支配下にあったが、その皇帝が悪魔にそそのかされてクルド人に圧政を敷いて苦しめた。そこでクルド人はカワという鍛冶屋の男を中心に蜂起し、アッシリアの軍隊を打倒した。そのとき、彼らは松明の火を盛大に点し、山に隠れていた子供たちに蜂起成功を知らせた――。

 ワッカスさんたちはこれを「事実」と言う。

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「クルド人はオスマン帝国やアラブ人の侵略で文字の記録を全部失ってしまいました。だから、口で伝えるしかなかったんです」

 鍛冶屋のカワの話が事実かどうかは確かめようもないが、クルドの人たちがこのメディア人のアッシリアからの解放とそれに続くメディア王国独立を、現在の自分たちの「独立」と重ね合わせているのは間違いないだろう。

 それ故、クルドのネウローズは長らくトルコ政府から禁止され、西暦2000年に解禁されるまで人々はこっそり行っていたという。

©︎iStock.com

クルドのネウローズはざっくばらんで庶民的

 イランのノウルーズには細かいしきたりや特別な料理があるようだが、クルドのネウローズはもっとざっくばらんな庶民的なものらしい。

 基本的にはみんなで集まってご飯を食べながら歌ったり踊ったりする。また、焚き火をたいてその上を飛び越えるという一種の縁起かつぎを行ったり、山へ登って火を点したりもするという。この「火」を神聖視する習慣は拝火教の異名をとるイランのゾロアスター教とも共通し、中東におけるインド・ヨーロッパ語族(アーリア人)の古い信仰の形をとどめているものらしい。

 料理に関しては、「特別なものはありません。外でやるから肉(ケバブ)を焼くことが多いかな」とワッカスさん。

 今日は屋内であるし、ワッカスさんたちの大好きなチーキョフテをお祝いに食べようということになったそうだ。