「正直、なぜテコンドー協会の理事に選手出身者が少ないかというと、協会に入っても金原さんの独裁が嫌で誰もやりたがらないというのが実情だったんです。美穂さんは現役のときもオリンピアンとして日本代表のパイオニアやったし、協会に戻って来たときもアスリート委員長として本当にがんばってくれていました。その美穂さんが倒れたのに笑っているって人としてありえないことですよ。美穂さんは意識が戻るとすぐにマスコミに知らせようと動きました。私もテレビ局に一緒に行ったんです」
テレビに出たことで、問題が一気に広く知れ渡った。再び高橋に訊く。理事会の紛糾が大きくテレビで取り上げられた影響はやはり大きかったのか。
「このままではいけないと、全国の協会の正会員たちが動き始めました。正会員総会で、8割の正会員が金原体制の理事の総辞職を望むという地固めができたんです。ところが、その総会直前に予想外のことが起こったんです。金原さんが突然、外部の検証委員会に調査を依頼したという報道が出るんです」
金原体制へのまさかの“シロ判定”
そうして、総会の前にスポーツ法学会の境田正樹弁護士を委員長とする外部の有識者による検証委員会が立ち上がった。他競技団体でも問題解決のために第三者機関が内情を調査し、理事が全員辞職をした上で新しい理事を推薦して立て直した事例がある。それに倣う目的だが、テコンドー協会では金原会長自らの依頼によって境田弁護士が検証委員会を作ることになったところがポイントだろう。
10月下旬に高橋は「自分も辞めるので金原会長も再任が無いように」という意志を示し、理事の辞任届を提出した。数日後、臨時理事会が開かれて理事の総辞職が可決された。そこから検証委員会は1カ月に渡り、会長、強化選手に加え、元理事25人にヒアリングを開始した。
そして11月末、検証委員会の境田委員長は金原会長と並んでそのヒアリングの結果を会見で発表する。
ここで境田委員長は金原会長の退任を告げる。と同時に「調査の結果、協会がガバナンスコードに違反している事実は無くしっかりと運営されていた。協会に財力が無いことが問題の本質である」とマスコミに発表するのだ。言わば“シロ判定”を高橋はどう受け止めたのか。