大人も変わり、スラムの子がマラソン大会で上位に
3年目になるとまわりの大人たちにも変化が起きたんです。子どもたちが安全に走れるように、練習場をきれいにしてあげたいのだと、250人くらい集まって、みんなで一緒にそうじをしました。
4年目に、マラソン大会のジュニアの部でスラムの子たちが2位、4位、7位に入ったんです。ナイロビの陸上のエリート選手に混ざって、この成績はすごいこと。たくさんのテレビやラジオの取材を受けました。そうすると、陸上に興味がなかったスラムの人たちも、「自分たちもやればできるのかな」って思いはじめて。希望を持った子たちが増えていくのがうれしかったです。さらに5年目に2位に入った子は、最初に陸上選手になりたいと言ったモーリスくんでした。
——お話を聞いて、支援はものを送るだけではなく、受け取った人たちの心を動かすこともできると感じました。
高橋 1回目に行ったときに、「こういうふうにしよう」と自分で決めていなかったのがよかったと思います。初めて知った事実に驚きながらも、みんなと目線を合わせて、一歩ずつ進んでみました。だから受け入れてくれたんじゃないでしょうか。
青年海外協力隊の人たちに話を聞いても、「やってあげよう」という気持ちでは、拒絶されることが多いと。向こうの人たちも自分たちが続けてきた生活がありますからね。一度「これをしたい」という気持ちを捨てて、その国の人たちに溶け込んでみる。コミュニティの一員として、同じ目線で歩いて行くと、みんながその人を頼って耳を傾けてくれる。その過程が私はすごく大切だと思います。
アフリカの子たちは夢を1つ持つことがすごく大変
——私が行ったブルキナファソでは、サッカーボールがほしい子どもたちがいました。
高橋 日本では、多くの人にとって夢というのはたくさんの中から選ぶもの。でも、アフリカの子たちは夢を1つ持つことがすごく大変なんですよね。走りたいと思っても靴がない。その靴を買うために、まず自分で仕事をしてお金を貯めなくてはならない。
破れたサッカーボールを持った男の子の写真、彼の気持ちがすごくわかります。私たちが靴をあげたモーリスくんも、ボロボロの靴をまだはいていました。陸上選手になりたいと最初に言ってくれた子だったので、特別に「また練習してね」と新しい靴をあげたんです。喜んではいたのですが、すぐに脱いでしまった。破れた靴にはき直すと、「今日はこれを抱いて寝るんだ」って。ものを大切にする気持ちは、日本人が学ぶべきことだと思いますね。