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藤井聡太七段の師匠・杉本八段が明かす“東海の師弟物語”「永瀬さんは名古屋の終電に詳しくなった(笑)」

藤井聡太七段の師匠・杉本八段が明かす“東海の師弟物語”「永瀬さんは名古屋の終電に詳しくなった(笑)」

2020/07/11
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 おお、あの泣きじゃくっていた子がなんと落ち着いて。当時の藤井は三段リーグを戦っていた。さて詰将棋解答選手権2連覇の実力を見てみようと、高名な詰将棋作家の問題を見せた。10秒後、「できました」。おいおいそれほど難しくはないが合駒入りの25手だぞ。杉本はニコニコとそれを見ている。席上対局では佐々木勇気五段(当時)と相矢倉で互角の勝負をした。自玉が危険なのに攻めあいに出たがギリギリで佐々木が制した。「危ないところでも強く踏み込むのが藤井なんです」と杉本。

 2017年、5月岡崎将棋まつりは“藤井フィーバー”で大変な騒動だった。控室で杉本と藤井が話している。「出前とるときはこの店がいいよ」。藤井がニコニコとうなずく。「将棋では教えることは何もないからね」と杉本が笑った。杉本の表情が豊かだ。3年前とは比較できない。明らかに若返っている。

「藤井が泣くのを見たのはそれが最後です」

 王位戦第1局の控室で杉本に話を伺った。

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7月1・2日に愛知県豊橋市で行われた王位戦七番勝負の第1局 ©代表撮影:日本将棋連盟

杉本 藤井は育てやすい、手のかからない弟子だったですね。自らしっかりと学んでいくので、邪魔しなければいいだけかなと。師匠って結構邪魔しちゃうことがあるんですよね。良かれと思ったことが逆効果だったりとか。藤井は邪魔さえしなければ必ず強くなってくれると信じていましたから。

――私が最初に会った時彼は負けて泣いていました。弟子になってからは泣いたことはあるんですか。

杉本 私に弟子入りしたのは小学4年生で、その頃には落ち着いてきて泣くことはありませんでした。

 研修会の指導では4枚落ちから飛車落ちまで指しましたが、弟子入りした後に多面指しですが平手で指したらいきなり負けちゃったんです。そしたら藤井は当然という顔をしてましてね(笑)。

 そうだ、1回だけ泣いたことがあります。学業に専念するため奨励会を辞める決断をした弟子がおりまして。最後に一門の研究会に彼がきたので誰と指したい?って聞いたら藤井と指したいってね。私を指名すると思っていたんですけど(笑)、わかったと藤井と指させたんですが、対局中に彼が泣き出しちゃったんですよ。とても将棋が好きな子でしたから気持ちは痛いほどわかります。そうしたら藤井も泣き出しちゃってね。藤井が泣くのを見たのはそれが最後です。

――彼と将棋を指すと疲れませんか? 私は棋聖戦の準決勝と挑戦者決定戦の観戦記をしていただけで疲れたんですが。

杉本 ええとても疲れますよ。感想戦で早口で長手数の変化言われてね。ちょっとまってよ追いつけないよと。奨励会で初段になる頃ぐらいから強くて手に負えなくなってきました。で、三段になったタイミングが悪くてしばらく対局が空いていたので、彼に武者修行させたんです。三浦さん(弘行九段)の自宅まで私と藤井が出向いて三枚堂達也七段と4人で研究会をしたこともあります(※三浦は杉本と親しく名古屋まで出向いて指していたこともある)。

「永瀬さんは名古屋の終電に詳しくなったですね(笑)」

――藤井と永瀬拓矢二冠との研究会について教えて下さい。