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杉本 東京では将棋センターとかで指していたみたいですが、こちらでは私の実家で指しています。彼らは会って1分ですぐ将棋を指し、ギリギリの時間まで2人で研究して永瀬さんは東京に帰っていく。永瀬さんは名古屋の終電に詳しくなったですね(笑)。もちろん会話はほとんど将棋です。お昼ごはんが困りましてね。本来なら後輩の藤井が買いに行くべきなんですが、外に出ると目立つでしょ。実家は私の家から車で10分程なんですが、なので私が弁当を買って車で届けに行くんです。感想戦もしっかりやって長いので、なかなか食べようとしない。冷めちゃうよと声をかけてようやく感想戦が終わったりとか。あんな強い二人があれだけ真剣に指すわけですから、そりゃ強くなるはずですよね。

 2人のぶつかり稽古を見ていると永瀬さんは藤井と対等に接しているんです。横綱が胸を貸すという感じではないし、将棋の内容も互角以上だと永瀬さんは言っていました。だから今回、藤井が棋聖戦と王位戦の挑戦者決定戦で連勝しましたが、驚かなかったですね。今日の将棋も藤井らしい強い内容でしたが、これからも藤井は将棋のあらゆる可能性を追求していくと思っていますし、時代の最先端の将棋を指し続けるでしょう。

2020年6月23日、王位戦挑戦者決定戦。藤井は永瀬二冠と対戦し勝利。2人は研究会パートナーでもある ©代表撮影:日本将棋連盟

「まあ杉本先生が形勢が良いですよね」

 2018年11月、C級1組順位戦。早い時間に快勝した藤井が珍しく控室に顔を出した。こんなチャンスを逃してはいけない。ちょうど杉本―佐々木勇気戦を検討しているところだ。

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 おっとこのままだと逆側をもつことになる。「逆にする?」と聞くと「このままで結構です」ということで私が藤井の師匠を持ち、藤井が私の弟弟子側をもって検討する。形勢は杉本がいいはずなのだが藤井は巧みにしのいで佐々木玉を捕まえさせない。その内に絶妙の香捨てで逆に杉本玉が詰まされてしまった。なんで瞬時にこんな手が見えるのかと呆れる。藤井はまあ杉本先生が形勢が良いですよねと言って、丁寧に挨拶して控室を後にした。

 実戦は杉本が見事な指し回しで快勝した。藤井の連勝を止めた佐々木を師匠の杉本が破ったのだ(後日この話をすると杉本は笑いながら「藤井は他人の勝ち負けを願ったりすることは絶対にないから。盤上の真理を追求するだけだから」と話した)。

 藤井は10回戦で近藤誠也七段に負け、結果師匠と弟子は同じ9勝1敗ながら順位の差で杉本昇級、藤井は上がれなかった。

「板谷進先生にはどう報告したいですか?」

 再び、杉本との会話に戻る。

杉本 順位戦が終わった1週間後にご飯食べたんですが、流石に若干気まずかったですねえ(笑)。