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「へえ、髪すんのは下手やのに、浴衣は着せられるんやな」

 腰ひもを締め直しながら視線を上げると、こちらをのぞきこむ朱村綸と目が合った。彼女と話すのは入学式の日ぶりだ。私たちは同じクラスでも違う女子グループに入ったから、ほとんど接点が無い。

「あのときは急いでたから」

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「なんであんなにあせってたん?」

 体育館に入る前に校則を守りたかったから、と言おうとしたけど、朱村さんが髪を肩より下の長さなのに余裕で下ろしたままなのが目に入って、言葉を変えた。

「緊張してたから」

「そっか、たしかに保護者もいっぱい来てたし、自分の親にも見られるもんなぁ」

 たむじゅんと親友になった朱村さんは新入生の初々しさをとっくに捨てて、制服のスカートを腰で幾重にも巻き折り、膝のだいぶ上までまくり上げていた。高校生を真似てるんだろうけど、短くしすぎて裾が広がったプリーツスカートは、かえって幼く見える。たむじゅんが一気に派手になったのは、お兄さんの影響だけじゃなく、きっと彼女と友だちになったせいもあるだろう。

 グループのメンバーだけで行動する女子が多いなかで、朱村さんはわりとクラス全員の子に気軽に話しかける。話しかけられたクラスの子たちは普通よりもワントーン鮮やかな色彩の朱村さんのテンションにつられるから、話し終わったあとも、みんなちょっとしたプレゼントをもらったあとみたいにはしゃいでる。

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 でも私は朱村さんが少しこわい。たむじゅんが分かりやすく人を威かくするのに比べて、朱村さんはあっけらかんと、無邪気に人を傷つけそうだ。興味あるものをじっと見る、好奇心に満ちた、恐れを知らない目つき。よく考えるより先に行動して、思ったことをそのまま口に出す危なっかしさ。入学式のときは友達になれそうと思ったけれど、今はまったく思わない。朝の学活でも授業中でも先生の顔色を気にせず自由におどけて発言し、クラスのみんなを笑わせるような明るい彼女を、自分とは別の人間と感じてた。

「前向いて、えり元整えるから」

 おはしょりを引っ張り過ぎたせいで開いてきた朱村さんのたもとを引き寄せ、見えていたピンクの肌じゅばんを隠す。手を離すとすぐまた開いてきて、何度も引っ張っているうちに、私の息が首にかかったのか、彼女が笑って顎を引いた。

「こしょばい」

「じっとして」

「ちょっと聞いてもいい? あのさ、家庭科部ってどんな活動してんの? 私ずっとふしぎやってん。ほら私とかソフトボール部やし、ソフトボールばっかりやってるやんか。でも家庭科部って、具体的に言うと、なに?」

「ミシンでパッチワークのコースターを作ったり、きなこ山もりのわらびもちを作ったり」

「へえ、色々やってるねんな。おもしろそう」

 家庭科部をなぞに思う気持ちは、ちょっと分かる。まだどこの部に入るか決めていない四月の時点で開かれた部活動発表会でも、床に体育座りして眺める新一年生たちに、他の運動部や吹奏楽部の先輩が体育館のコートを使って派手に演習してみせるなか、家庭科部は部長が一人だけ出てきて、一年間の活動内容を小さな声で説明しただけですぐ引っ込んだ。短すぎて、メモを取るひまもなかった。