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 先生と朱村さんはしばらく話していたが、ふいに朱村さんが少し離れた場所にいる私を指差した。後ろをふりむいたけど誰もいなくて、まさかと思っていると、先生が私を手招きした。

「悠木さん、来てくれる」

 教壇まで歩いていくと、朱村さんはそっぽを向きこっちを見ようともしない。

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「悠木さん、朱村さんに勉強教えてやってくれる?」

「私がですか」

「朱村さん、中間の結果、あんまり良くなかってん。とくに英語」

 家では姑の介護が大変だという真藤先生は、学校でもよく家庭の愚痴を言ってて、それがけっこう辛らつで笑える。無神経ってわけじゃないけど、プライバシーの意識はおおらかだから、どこか思わぬ方向から矢を飛ばしてこないか、生徒たちは内心おそれている。

 今回はその矢が朱村さんの頭にささってるみたいだ。

「だれかにみっちり教えてもらいって言うたら、あんたが良いねんて。どうや、見てやってくれる?」

「はい」

「そうか、ありがとう。よかったな、朱村さん」

©iStock.com

 朱村さんは無反応のままだ。

「どうしたんや。悠木さん引き受けてくれたんやし、お礼言いや」

「だって先生の言い出したことやし。私やない」

「なんやそれ、まあええわ。悠木久乃と朱村綸か、めずらしい組み合わせやな。ま、勇気りんりんチームで頑張り」

 アンパンマンのエンディングテーマが頭のなかで流れるなか、朱村さんと私は顔を見合わせた。

 

 まだ中一でも受験のときの内申点に関わる可能性もあるから、先生に逆らう気はない。でもいざ教えるとなると気づまりで自分から言い出すこともなく、なんで指名されたのかも分からないまま一週間ぐらい過ぎていた。

 朱村さんが何も言ってこなかったから、立ち消えになったと思ってた。乗り気じゃないのも、伝わってきたし。私だって、やる気の無いクラスメイトに、先生ぶって勉強を教えたいわけじゃない。

「動詞が入ってきたときの、語順が分からへん。イズとかアーとか、疑問文になったらあちこち動くやろ」

 朱村さんはチェック印がいっぱいの答案を私の机の上に堂々とさらし、シャーペンの先で該当箇所をつついた。

「いっこ聞いてもいい?」

 私の顔を上目遣いで朱村さんが見返す。

「なに」

「なんで私を指名したん?」

 朱村さんは女子にも男子にも友達が多いし、そのなかには勉強を聞ける人もいたはずだ。

「だって英語の発音上手いやん? 教科書の文を先生に当てられて読んだことあったやろ」

 学習塾の他に週一でネイティブの先生の英会話を受けていたから、発音はよく訓練していた。学校の授業でメリッサ仕込みの発音を披露すると、気取ってると冷やかされるかもしれないから控えめにしてたけど、この間当てられたとき緊張して、習った通りの発音で読んでしまった。でもたった一度だけだったはずやけど。