社長が「当社はいまや食品会社」と語る
そこで銚子電鉄は平成7年に地元の名物「ぬれ煎餅」の販売を開始した。これも実話で、ぬれ煎餅は同社通販サイトで「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」と正直な宣伝文句を載せたところ、伝説の巨大掲示板「2ちゃんねる」でバズった。メディアにも取り上げられ、現在は同社の売上の7割はぬれ煎餅になった。後発商品の「まずい棒」も累計200万本越えのヒット商品となっている。
社長が「当社はいまや食品会社」と語る。これもネタではなくて事実らしい。企業調査会社のデータベースには、鉄道会社ではなく米菓製造会社として登録されているという。講演の締めくくりに、映画制作の動機が語られる。老朽化した変電所の修繕費として約2億円が必要だ。そのための秘策が『映画』制作だ。この続きは本編で……となる。
観客側に銚子電鉄の本物の社長、竹本勝紀も出演している。セリフもなく、竹本の顔を知らないと解らない。しかし、銚子電鉄と竹本の奮闘ぶりはテレビの情報番組やビジネス誌などでもたびたび採り上げられている。彼はほかの場面にも出てくる。知る人ぞ知る仕掛けだ。見つけたら嬉しくなる。
線路は単線なのに映画は伏線たっぷり
実は、本作にはこのような仕掛け、伏線がたっぷり仕込まれている。タイトルをオマージュした『カメラを止めるな!』は、伏線をちりばめて見事に回収していくスタイルが心地よかった。『電車を止めるな!』の伏線はちょっとわかりにくいけれどネタは多い。線路は単線なのに映画は伏線たっぷり。これも竹本社長がトークショーで語った自虐ネタ。
たとえば公式サイトのトップに表示され、ポスターとしても使われたメインビジュアル。ここから仕掛けは始まっている。分かりやすいところはサブタイトルの「~のろいの6.4km~」だ。原作の小説では「呪いの」と漢字。映画はひらがな。電車の速度が遅い「のろい」の意味も掛けたから。6.4kmの短い路線で、列車の速度が遅いから。お得意の自虐ネタのひとつ。
もうひとつを書いてしまったらネタバレになってしまう。鑑賞後、もういちどメインビジュアルを観よう。「ああ、そういうことだったんだ」と感動がよみがえるはずだ。これは笑うところではなく、じんわりと感動するところだ。本作がネタ映画、自虐ギャグ映画で片付けられない理由が、このメインビジュアルに仕掛けられている。
鑑賞後にもうひとつ。銚子電鉄の通販サイトにアクセスしよう。ある新商品を見て感動がよみがえるはず。しかしふと我に返って「もしかして、これを売るための映画だったのか」という疑念もわく。感動を返せ。ま、銚子電鉄だからしょうがないか。