昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載この鉄道がすごい

2020/11/01

あの映画にあやかって映画を作ろう

 ネタばらしにならない程度に映画を紹介する。銚子電鉄では乗客減に悩む中、さらに不自然な乗客減少傾向があった。もともと少ないけれども、異常な現象だ。それはどうやら心霊現象によるもので、沿線でも「電車に乗るのが怖い」とウワサになっているという。

 しかし、銚子電鉄はすでに経営の修羅場を何度も潜り抜けており、もう怖いものはない。社長の蔵本は心霊現象を逆手に取り「生放送で深夜に幽霊電車を走らせる」という企画をテレビ局に売り込もうとした。「テレビを観た人が怖いもの見たさでわんさかやってくるはずだ」と。しかしテレビ局では却下。むしろネット配信向きではないかとアドバイスされた。鉄道オタク、心霊オタクにウケるはず。蔵本もすっかりその気になる。

実際に2019年夏に企画されたお化け屋敷列車「呪いの廃校列車」(銚子電鉄プレスリリースより)

 電車は午前3時に犬吠駅を発車し、仲ノ町駅で折り返して終点の外川駅まで走る。本物の霊の登場はさすがに期待できない。そこで蔵本は秘策として霊媒師の広瀬じゅず、地元銚子の高校生シンガーで特別銚子観光大使のHINA(本人役)を呼ぶ。ネット配信役は鉄道アイドル木村裕子から、ファンの谷川亮太を紹介された。そこに心霊現象好きのアイドル「めむたん」、怪談師の簑毛よだつなどが参加した。

 ヤラセではないかと眉をひそめる女子社員、乗務したくないとごねる運転士。ほかの社員からは「社長は乗らないでくれ」と懇願される。前年のお化け列車がシャレにならないほど怖く、ゾンビ役の社長に非難が集中したのだった。しぶしぶ社員の進言に従う蔵本は、会社への思い、鉄道への思いを若手社員に託す。ここはとても良いセリフだ。

「これだけは忘れないでくれ。俺たちは日本一のエンタメ鉄道を目ざすんだ。(略)それが地域への恩返しであり、ローカル鉄道の使命なんだ。(略)銚電はいつもふざけたことをしていると言われるけれど、俺たちは真剣にふざけている。(略)目的は1つ。鉄道を存続させることだ。(略)たとえ古びた傷だらけの電車でも、そこに無限の可能性を信じて前進を続けること以外、俺たちの生きる道はない」

 長いセリフを略したけど、ぜひ本編で聞いてほしい。

ロケ地は銚子電鉄全線。路線が短いからロケ地訪問もラクだ

映画好きがニヤニヤするオマージュの連発

 かくして心霊列車は発車した。ところが目立ちたがりの乗客ばかりで配信はドタバタ。ネットでは早々に炎上してしまう。話題性としてはこれも成果だろうか。ところが、しだいに予測も付かない現象が起き始める。蔵本は事態を収拾しようと奔走するが、これは社員たちがナイショで仕掛けたサプライズイベントか、それとも本物の……?

 運転でもトラブルが起きて、列車は暴走する。このままでは終点で脱線してしまう。あれ、おかしいな。『電車を止めるな!』というタイトルなのに「電車を止めろ、止めてくれ」という展開だ。『新幹線大爆破』『大陸横断超特急』『アンストッパブル』など、鉄道映画の名作へのオマージュに変貌した。たった6.4kmで、この定番的な展開をやるとは……のろいからできるわけだ。

z