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家から出しましょう

 きっかけは、父親が地元の新聞で見つけた記事だった。近くの地方都市にあるNPO団体「ひまわりの会」で、引きこもりの家庭のサポートをしているという。

 父親は、さっそく会いに行ってきた。会長の村上友利さんとすっかり意気投合し、その場で入会。

 それからは夫婦で月に1回、会合に参加するようになった。

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写真はイメージです ©iStock.com

 そのうちに村上さんが、月に一度石田さんの家を訪問してくれるようになった。

 宗太さんの部屋の前で声をかけるが、返事はない。あとでわかったことだが、声が聞こえないようにヘッドホンをつけて、大きなボリュームで音楽を聴いていたそうだ。

 3回目の訪問のときは、2階にいる宗太さんがトイレに行く音が聞こえたので、村上さんはトイレから出てくる宗太さんを待ちぶせしてみた。

 ついに、宗太さんが姿を見せた。「あ! びっくりした!」と声を上げ、村上さんを避けるように自分の部屋に逃げ込んでしまった。

 そんなふうにして訪問サポートを続けているうちに、また1年が過ぎた。このままでは何も変わらない。

「宗太くんを家から出しましょう」。村上さんと父親は、相談の結果そう決めた。

 本人には内緒で、センターから歩いて3分くらいのところにアパートを借りた。両親が家財道具一式を揃えた。これから寒い季節になるからと、こたつも入れた。

 あとは本人を何としても説得し、決断させることだ。果たして出てきてくれるのだろうか。

平然とテレビを観ながら食事

 いよいよ決行の日、村上さんは朝からやってきた。一日がかりで説得するつもりだった。宗太さんの部屋の前で、村上さんはこう声をかけた。

「ここを出て一人暮らしをしてみよう。今日、行こう」

 父親も呼びかけたが、全く応答がない。

「宗太君、ドアを開けるよ」

 金属バットの突っかい棒をうまく浮かせて、何とか部屋のドアを開けた。

 そこには、平然とテレビを観ながら食事をしている宗太さんがいた。

 村上さんたちの存在を全く無視していて、動揺した気配もない。髪は背中まで伸び、髭も、仙人のように伸びていた。