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トップを走る松屋を、吉野家が猛追…2020年に「牛丼カレー界」に起きた異変

2020/11/27
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安価にホテルレストラン並の美味しさを実現できるワケ

 尋常じゃないニンニクの効かせ方でインパクト満点の味わいを作り出すのは松屋のいわば「お家芸」でしたが、この数年松屋はそれ一辺倒ではなく、ニンニクのパワープレイに頼らない多彩な味わいで商品の幅を広げている印象があります。この創業ビーフカレーもその流れの一環ということも言えるかもしれません。

 ニンニクに頼らない代わりに炒め玉ねぎと牛肉をふんだんに使いそれをバランスの良いスパイスがきっちり引き立てる事で、言うなれば、塩気こそかなり強めではあるものの高級なホテルレストランのビーフカレーにも匹敵するような説得力抜群のおいしさに到達していると思います。

 それでいてホテルカレーともまた一線を画すポジティブな意味でのワイルドさは備えています。やはり相変わらず強めのスパイスの効きもさることながら、面白いのはこのカレー、形が無くなるまで煮込まれた牛肉の繊維に混じって筋や皮膜の白っぽい部分が時として結構な割合で混ざっている事があるのです。高級なホテルカレーだと丹念に取り除かれる部分でもあります。確かに見た目は良くないのですが、逆に考えればそういう端材もフル活用する事で価格を抑えつつ高級感のある味わいを創出していると言えます。

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©文藝春秋

 創業ビーフカレーの490円という価格は、それまでのオリジナルカレーが390円だった事と比較され「体の良い値上げではないか」というネガティブな声もあったようですが、このクオリティの本格ビーフカレーがワンコインでお釣りが来るというのはむしろ奇跡的なレベルだと思います。

王者の余裕を感じさせる「ごろごろ煮込みチキンカレー」

 現在の松屋のカレー部門を創業ビーフカレーと共に支える二枚看板のひとつが「ごろごろ煮込みチキンカレー」です。創業ビーフカレーが、これまで幾多のアグレッシブな挑戦を経て最終的に原点回帰した一つの到達点とするならば、この通称「ごろチキ」はその挑戦の最新型と言えます。

 挑戦と言いつつこのカレーは、松屋のメイン調理器具ともいえる肉焼き用鉄板で香ばしく焼いたチキンをその場でカレーソースと合わせる、という松屋にしかできない盤石のオペレーションの上に成り立っている点が肝です。言うなれば、成熟した技術の水平展開。王者の余裕すら感じさせます。