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 日本人にとってカレーとは長時間じっくり煮込んでナンボ的なイメージは今なお根強いわけですが、ごろチキのこの、あえて煮込みすぎずに素材感を引き立てるというメソッドは、インドカレーなどにも通じるワールドスタンダードな技法。そういう部分が相変わらずアグレッシブ。実際、煮込みすぎないからこその肉の食べ応えやジューシーさが存分に楽しめるわけです。そしてここまで鶏肉たっぷりなら煮込まずとも旨みは十分カレーソース全体に行き渡るという計算づくの力業。見事としか言いようがありません。

 こちらはレギュラー枠ではなく期間限定商品ながら、ファンからのあまりの要望の強さにより、派生商品である「ごろごろチキンのバターチキンカレー」も含め準レギュラー的に登場し続けていたりもしています。またいつか帰ってくるに違いない、という期待感の煽りもまた王者の余裕。私たちはその王者の掌中で転がされるばかりです。参った。

正直パッとしなかった吉野家のカレーに起きた異変

 そんな松屋のカレーに比べて、牛丼最大手吉野家のカレーは、正直なところこれまでパッとしないイメージでした。しかし最近、ついにそこにちょっとした異変が起きました。

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©時事通信社

 従来の吉野家のカレーは、良くも悪くも典型的な外食の業務用カレー的な味わいでした。カレーライス単体でも、牛丼との合いがけ、通称「カレ牛」でも無難に楽しめる王道的な味わいではあるものの、特にこれと言って特徴があるわけでもなく、わざわざ食べる程のものではないというのがあくまで個人的な印象。実際「牛丼屋でカレーを食べるなら松屋」というのは、前述の通り世の中のカレー好きのほぼ一致した意見だったと思います。

 ところが今年の8月、吉野家はその松屋とは全く違う切り口でカレーのリニューアルを仕掛けてきました。それは端的に言えば「カレ牛専用カレー」。とにかく、吉野家の看板商品である牛丼を徹底的に引き立てるための、ポジティブな意味で脇役に徹したカレーです。

2020年8月に発売された「肉だく牛カレー」 ©文藝春秋

 松屋のカレーは実際あまりカレ牛には向いていないと感じます。ごろごろチキン系にはそもそも牛との合いがけメニューは設定されていませんが、創業ビーフカレーはカレ牛がメニューにあるとは言え、ただでさえ大盛りにしないとご飯が足らなくなりがちなストロングな味。そこに更に牛が加わると収拾が付かなくなってしまいます。

 その事はもちろんカレーそのものが存在感や完成度がそれだけで充分である事と表裏一体ではありますが、何にせよ吉野家はそこに対して完全に競争の軸をずらして挑んできたという事になります。