“例の家”の意味とは……?
「で、この話は終わりなんだけどさ!」
Tさんが幕を下ろしたことで、一同の間には安堵と恐怖が入り混じった声が漏れ始めた。
だがそこに一番強く漂っていたのは“困惑”の空気だった。流石に“不可解すぎる”。一体この不気味な話をどう処理していいのか、一同戸惑っていたのだ。
それを感じ取ったかぁなっき氏は、場を和ませようと、当時彼らの間で流行っていた“なんでも横文字に変換する”というギャグを、Tさんに振ったのだそうだ。
「いやぁ~、でもやばいね、その“例のハウス”!」
「いや、“例の家”だわ! なんで英語にしたし!」
Tさんの素早いツッコミで場は和み始め、おふざけのノリは次第に“例の”の部分を言い換えるものに変わっていった。
「“あの“家ね!」「“問題の”家でしょ?」「“噂の”ホームね!」、矢継ぎ早にボケていくうちに言い換えの弾がなくなってきたかぁなっき氏、そんな彼の脳裏にとある言葉がポンと浮かんだのだという。
「ああ、“件(くだん)の”家ね!」
“件(くだん)”
それは江戸時代の後半から明治の初期にかけて、関西を中心に出現したとされる、牛の体と人間の頭部を持ち、人間の女性から突如として産み落とされるという存在。件(くだん)は、生まれて数日の間に必ず当たる“予言”を残し、突如死ぬという。
“件(くだん)の家”
“例の家”
“突如止んだ赤子の泣き声”
“一家心中”
“焼けただれた牛の死体から見つかった赤子の頭部”
“予言”
戦後期から数十年に渡り口承で伝わってきた噂は、必ずしも正しい呼び名で伝わるとは限らない。かぁなっき氏のその一言は、すべてのピースを不意に埋めてしまったのだろうか。
この想像が正解なのか、今もまだその家があるのか、すべては謎のなかだが、当時のかぁなっき氏は、しばらく怪談を集めることをやめたという。