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《大阪・飛田新地》まゆみママの”飴と鞭”「(女の子を)しつけるというより、調教やね」「お金に執着心を持たせるんですわ」

《大阪・飛田新地》まゆみママの”飴と鞭”「(女の子を)しつけるというより、調教やね」「お金に執着心を持たせるんですわ」

「さいごの色街 飛田」#4

2021/01/02
note

ウサギ柄の化繊の着物に、フリルのついた白エプロン

 ドキドキした。あまりにもあっさりとアポが取れたのは、何か裏があるのではないかと却って恐怖感を覚え、しかも、その日私は朝のフジテレビ「めざまし占い」で、私の星座、さそり座が最下位だったのにひっかかった。子どもじみているが、さそり座の「ラッキーアイテム」が写真立てだったので、「困ったことが起こりませんように」と藁にもすがるような気持ちで、大きな写真立てを鞄に入れて行ったのだった。なぜそんなにおびえたのか、不思議でしようがない。

 まゆ美ママの店は、青春通りにほど近い一等地近くにあった。寒風吹く昼下がり、歩く客はまばらだが、それでもいる。黒コートに黄緑色のマフラーを巻いた、昔日の文学者然とした紳士が悠然と歩いていたことが、その日の記憶にある。

 裏口の前から、指示どおり電話をかけると、「タエコというのに迎えに行かせます」とのこと。銘仙風の薄紅色の和服に、白い割烹着を羽織り、髪の毛をアップにまとめた40歳くらいの女性が、笑顔で迎えに出て来てくれた。

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「タエコです。井上さんですね?」

 確認した後、

「この通路、狭いの、ごめんなさいね」

 と先導してくれる。タエコさんは、その仕草にも話し方にも品があるように思えた。外通路を20メートルほど歩き、勝手口から料亭の建物の中に入り、応接間に通された。出てきたまゆ美ママも和装だった。ウサギ柄の化繊の着物に、フリルのついた白エプロン。目鼻立ちのしっかりした美形。痩身。

 簡単な挨拶をしてから、私が「飛田はすごくいい町だとは思わないけど、必要とする人もいる町だとは思うんです」と言うと、まゆ美ママは「そう。そう思ってもらわな」とにっこりした。以下、記憶にある限りの質疑応答である。

電燈が灯っている通りにはひしめき合うように料亭が並んでいる 撮影/黒住周作

「人に使われるのが嫌いなんですわ」

――「箱モノ」をやりたくて、飛田に来たとブログに書いてありましたけど、そうなんですか?

 そうですそうです。デートクラブやってたやないですか。ヤクザに「開業届」を出して、公衆電話ボックス内にチラシを貼る場所を「縦一列」「横一列」と高いお金でやっぱりヤクザから買って、女の子たちを派遣。警察にアレされるから、チラシを作ってくれる印刷屋が少ないんですよ。1万枚で50万円とか、ふつうじゃなかった。引き取りは真夜中やし。それに比べて、堂々と届け出して商売する箱モノは一種の出世です。憧れやったんです。

 警察が「ヤクザが何か言って来たり、脅されたりして、困ったことがあったら、すぐに連絡して来なさい」と言ってくれたし、合法だと思っていたんですよ。すぐに非合法やと分かりましたけど。

――水商売ひとすじ?

 私はふつうの家庭に生まれ育ったんですけど、なんやしらん商売が好きでね。八百屋やった友だちの家がうらやましかったし。人に使われるのが嫌いなんですわ。10代のころ、会社勤めというか工場勤めもしたことありますけど、決まったことをさせられるのがあかんのね。