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元々どうしようもなかった女を1人前にさせる

――この仕事、好きですか?

 ええ。天職やと思いましたよ。女の子をつくりあげていくのが楽しいんです。こういう所に来るのは、言うたらなんですけど、だらしない女の子ばっかりです。そんな女の子を、世間に通用するようにつくっていくのが面白い。そのためには、叱るんやなくて、怒る。感情をむき出しにして怒る。分かってくれへんかったら、しばき倒します。そうやって、女の子たちを人間的にも成長させたりますねん。

――たとえば?

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 5時の出勤予定やった子が、8時に「すいません」って言って入ってきたら、初めのうちは「うわ~」と怒ってたけど、おてるさん(ベテランの曳き子)に「ママ、飛田というところはそれが当たり前や。タヌキにならなあかん。時間守れる子はこんな商売しませんよ』と教えられて。最初「このおばはん、何言うてんねん」って反発心ありましたよ。でも、そうかもしれへんなあって。

飛田新地 撮影/黒住周作

 で、うわ~と怒ったあとには、「親方もおばちゃんも女の子も、お互いに食べさしてもらうんや」と、ご互いに思えるようにもっていく。毎日、店を開ける時「今日も一日よろしくお願いします」って、おばちゃんが女の子に、女の子もおばちゃんに言うて、頭を下げる。おばちゃんが女の子に出前のコーヒーをおごる。女の子は「ありがとうございます」ときちんとお礼を言うて、飲む。親方、おばちゃんのおかげで儲けさしてもらうんやと感謝の気持ちを植え付けさせるんです。

 スリッパの揃え方、灰皿の置き方、おしぼりの渡し方、洋服の掛け方も一つずつ教えます。

 それに、ここらの女の子、もうどれだけだらしないかていうたら、部屋の中、散らかり放題。放っておいたらゴミ屋敷。私は(女の子たちの)マンションの鍵を預かり、抜き打ちで調査に行ったるんです。散らかってたら、ただでは済まさん。そうやって、元々どうしようもなかった女を一人前にさせる。

料亭。光のなかに女性が座っている 撮影/黒住周作

 

「あんたたちは女優や。一流になりなさい。儲けなさい」って

――「飴と鞭」でしつけていくって書いてはりましたね。

 しつけるというより、調教やね。洗脳していくんですよ。「あんたたちは女優や。一流になりなさい。儲けなさい」って。うちは徹底した。てれんてれんの5000円くらいの服着てたら、あかん。高級クラブ並みの、4、5万の服で座らせましたからね。もちろん自分持ちです。毎日、出勤の前に美容院でセットさして。座ってる時、煙草もジュースも携帯さわるのも禁止。ジュース飲みたかったら、早く(客を2階に)上げなさいと言いました。1から10まで教えた。

――女の子のため?

 いいや、違います。自分のため。自分が儲けるためやね。

――お客さんのためでもある?

 そやねぇ。11000円って、お客さんにとっても簡単に稼げるお金やないですよ。汗して働いたお金を使いに来てくれてはるんやから、こっちだって真心で対応せなと思いますよ。