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「教育委員会とかが拘るんですかねえ」

 仕事のやり方も変えるべきとの提案もあった。教員のライフステージの部分で述べた通り、どの自治体も初任者研修を行う。そのために勤務校での授業持ち時間は2年目以降の教員より少なくされ、勤務校内外での講話やワークショップ等への参加が課される。高藤さんは1年間の研修を振り返り、勤務校での研修は役立ったが、「教育センター等に集められて講義形式で行われるものはネット配信にして、それぞれの勤務校で空き時間に見るようにした方がいいのでは」と提案する。初任者にとっては勤務校にいて子どもと接する時間を多くすることが何より役立つと実感しているからだ。確かに、大人数を一箇所に集めて行うより、わからないところは何度も視聴できるインターネット利用の方が効果的かもしれない。「僕らの世代はネット視聴の方が得意。全員集めて実施したという形に、教育委員会とかが拘るんですかねえ」と高藤さんは不思議がる。この提案は、「with コロナ」の時代になった今年度以降実現される可能性が高いだろう。

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 教員1年目は校内での会議の多さに驚いた1年でもあった。「自分が校務分掌で所属している会議には必ず出席しなければいけない。チームワークができているんだから、そのチームの誰かが参加して、そのポイントを伝えればいいんじゃないでしょうか」とも提案してくれた。

 教員になった今、もっと学んでおけばよかったと思うことを尋ねると、「子どもの成長過程をもっと勉強したかった。今、できるなら保育園に行って発達の様子を臨床的に見てみたい」との真面目な答えが返ってきた。

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「教員=ブラック」という見方があっても…

 教員=ブラックな仕事との見方が社会に一般に広まっているので、教員になることに迷いはなかったかと尋ねると、きっぱりと「迷いませんでした。小さい頃から学校が好きだったから。今、毎日給食も食べられるし」とユーモアを交えて話してくれた。

 アルバイトを含め、学校と塾以外の場を彼はほとんど知らない。しかし、彼には教える意欲と子どもへの愛情が十二分にある。

 彼は、学生時代に「先生塾」にも教員養成セミナーにも参加していない。教員採用試験対策の雑誌の定期購読もしていないし、模擬試験も受けていない。そういう意味では、今、教員となる人たちの中では少数派と言えよう。だからこそ、大学の教員養成課程や新任研修について語る彼は、自分の判断と言葉で語っている。現在の教員養成課程の影響は受けているものの、まだ定型化されていない高藤さんが、今後の教員のライフステージをどのように進むのか、非常に楽しみでもあり、また一抹の不安もあるのが筆者の率直な感想である。

教員という仕事 なぜ「ブラック化」したのか (朝日新書)

朝比奈 なを

朝日新聞出版

2020年11月13日 発売