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 ですが、失うことを恐れずに突き進むその姿を……私は眩しいと感じました。

 思い返してみれば、将棋でも最初はAIとガムシャラに戦っていたものです。
 電王戦でAIと膨大な数の対局をこなし、その実力を認め、それでも挑んでいった者達がその後どうなっているのか?

 『YSS』と千局に及ぶ練習将棋を経て勝利した豊島将之は、人類との研究会すら辞めてAIとの研究に没頭し、その後6つのタイトルを手にして現在は竜王として棋界に君臨する最強の棋士となりました。
 『Selene』と戦い、そのプログラム上の不備まで発見して「それ放っておくと投了すると思いますよ?」と言い放った永瀬拓矢も後にタイトルを獲得し、現在では「中終盤でもAIと同じ手を指せる者が天才」と言い切っています。
 『Apery』と戦った斎藤慎太郎もタイトルを獲得し、今、名人挑戦まであと一歩と迫っています。
 そして初代叡王として『ponanza』と戦い、己の将棋に殉じた山崎隆之は、40歳を目前にしてA級棋士へと初登極を果たしました。

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 当時とはもう、AIの強さが違うと言ってしまえばそれまでかもしれません。囲碁と将棋のゲーム性の違いもあるでしょう。
 それでも私は思うのです。
 強い者へと挑む心にはきっと、国も、時代も、ゲーム性も乗り越える何かがあると。その挑む姿にこそ、私たちは強く強く惹かれるのだと。