最悪の事態が頭を過ぎる
ハッと我に返って、自分の父ちゃんに電話した。
「プー、プー、プー」
何度かけ直しても繋がらない……。最悪の事態が頭を過ぎる。
「誰かがいない!」という理由で沿岸部まで探しに行って、もしかして父ちゃんまで津波に飲まれてしまったのかもしれない……!
人の心配ばかりしてる場合なのか。泊まっていた青森市内のホテルも、300メートルも歩けばすぐ海。まあ、ここは内湾だから津波は大丈夫か……と思いながら、ホテルのロビーに戻ると、催事仲間たちが集まっていた。ロビーは毎日朝食を食べる食堂になっていたスペースだったが、ここも停電していた。催事仲間たちはテーブルに置いたロウソクを囲み、催事で売るはずだったお弁当や商品を持ちこみ、酒を飲んでいた。
「実は自分の地元が、津波に飲み込まれて、仲間の数人にまだ連絡がつかない状態で、自分の家族にも連絡がつかずで……」
気が動転していたんだろう。自分はつい、そう漏らしていた。
「事態はわかるけどさ、その話を聞いたところで、俺にどうしろって言うの?」
催事仲間の一人が言った。正直、言い方が癇にさわった。なんて冷たい奴なんだ。だけど考えてみれば、催事仲間は県外から来ている人がほとんどで、地元に被害が出ていない人ばかり。頭ではわかっていても、それ以上食堂にいる気になれず、真っ暗なホテルの部屋に戻った。
思っているだけ、考えているだけでは駄目
部屋の明かりは携帯電話のライトだけ。相談できる人はいなかった。ホテルの布団に包まりながら、数日前に仲間から届いた訃報を思い出していた。
「横山さん、仕事中に事故に巻きこまれて亡くなったみたいです……」
横山さんはヒップホップイベントのクルーを一緒にやっていたDJの先輩。仕事中の事故で亡くなったとのことだった。自分は、どうしても線香をあげに行きたいと思ったが、最小の人員で回している仕事のため休みを取ることができず、諦めていたところだった。
思っているだけ、考えているだけでは駄目なんだ。すぐに行動しないと、絶対に後悔する。そう思うのと同時に、知り合い全員にメールを送った。