なんとなく感じたその悪い予感は当たってしまった
翌日には何事もなかったかのように、他の出店者の人たちと近くの居酒屋で懇親会を開いた。みんな自分と同じように県外から単身赴任で来ている人ばかりで、ホテルへと連れ立って帰る頃にはほろ酔いで、「会計、思ったより高かったね~」なんて何気ない会話をするほどに打ち解けていた。
2日後、なんとなく感じたその悪い予感は当たってしまった。
3月11日、午後2時46分。マグニチュード9.0。
まだ北国の雪がちらつく中、全国の美味しい食材を買い求める買い物客で賑わう週末の催事場。店内が、揺れ始めた。
「ガタガタ……ガタガタッ」
揺れは徐々に大きくなり、ついに大きな縦揺れが来た。
「ガタガタッ! ガシャーーーーン、ガシャーーーーーン!!」
デパートの8階催事場は、右へ左へと大きく揺れた。立っているのがやっとだった。お客さんからは悲鳴が上がり、年配の出展者の「静まれっ静まれー! 静まれええーー!!」という叫びのような、願いのような声が響き渡る。消防のベルがフロア全体に鳴り響いた。
やがて、揺れが収まった。だけど、すぐにまた揺れ始める。余震は何度もやってきた。これはただの地震じゃない——。
避難できずにいた車いすの男性
フロアにいた催事スタッフや買い物客、その場にいた全員が階段に殺到していた。避難する列に自分も加わろうとしたその時、階段の手前で、車いすに乗った人が避難の列に加われずにいるのが目に入った。ガタイのいい中年の男性だ。
思わず声をかけると「俺のことはいいから! 兄ちゃんたちは先に行って!」そう言って首を横に振った。
余震はまだ続いていた。「自分も早く外に逃げ出したい」という気持ちと、「この人を見捨てるわけにはいかない」という気持ちが交錯する。だけどすぐに、催事仲間に声をかけ、その男性を数人がかりで担ぎ上げた。8階から1階までの階段を、やっとの思いで降りて行った。
「ふう……助かったわ。兄ちゃんたち、ありがとな!」
車いすの男性と別れ、ひとまず肩を撫で下ろしたけど、それで一安心というわけにはいかなかった。