1969年作品(99分)/販売:東映/発売:東映ビデオ/4500円(税抜)/レンタルあり

 一九六〇年代末から、東映は突如として「異常性愛路線」をスタートさせる。ここに据えられたのが、「網走番外地」シリーズを大ヒットさせていた石井輝男監督だった。

 石井はここで持ち前のイマジネーションを爆発させ、問題作を次々と送り出していく。『徳川女刑罰史』『徳川いれずみ師 責め地獄』『異常性愛記録 ハレンチ』――煽情的なタイトルが並ぶ一連の作品群の中でもひと際強烈なのが、今回取り上げる『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』である。読んで字の通りの題名のため長いこと国内ではソフト化されることなく、一部の名画座でしか観られなかった作品だ。

「財力にあかせて離れ小島に理想郷を作ろうとする男の話」という共通項をもつ、『孤島の鬼』と『パノラマ島綺譚』の二本の乱歩小説を強引に組み合わせて物語は構成されている。なぜか精神病院に入れられていた主人公(吉田輝雄)が、命を狙われそうになりながらもなんとか脱出する序盤。急死した自分に瓜二つの富豪になり済まして日本海側の旧家に入り込む中盤。いずれも、次に何が起きるか分からない不穏さと怪しさに満ちているが、ここまでなら、よくある乱歩原作映画だ。

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 が、そこは石井輝男。後半になって一気にスパークしてくるのである。主人公がなり済ました男の父親は離れ小島に移り住んでおり、そこで人々に異形の者への改造手術をして、彼らを従えて思うままの楽園を作り上げていた。

 主人公は彼に会いに、島に向かう。この父親を演じるのが、暗黒舞踏で鳴らしていた土方巽。この男が怪しげな動きをしながら島を案内すると、それぞれに異形に扮した劇団員たちが次々と現われ、めくるめく「暗黒版イッツ・ア・スモールワールド」を見せつけていく。ここで既に前半のことは頭から消えてしまっているのだが、その強烈な暗黒世界すら忘却の彼方に吹き飛ばす展開が、終盤に訪れる。

 突如として名探偵・明智小五郎が登場、名推理を披露して裏で起きていた全ての事件を唐突に解決してしまうのだ。

 この明智の推理を通して展開される回想シーンが凄まじい。そこでは、旧家の執事に扮した小池朝雄が、椅子の中に潜り込んで女体をまさぐったり、女装してSMプレイに興じたり――乱歩小説に登場する変態行為をノリノリの演技で披露していくのである。

 そして最後の最後に、またとんでもない場面が控えているのだが、これは観てのお楽しみとさせていただく。

 とにかく、ひたすら唖然としているうちに物語は終わる。異常な石井イマジネーションの世界、この機会にぜひご自宅で浸ってもらいたい。