お金を使う魅力を味わわせる
そこで見事に顧問料10万円の契約を取った社員には現金で10万円を渡すだけでなく、ご褒美で銀座の高級クラブコース、赤坂の料亭コース、さらに吉原や川崎の高級ソープランドコースの中から行きたいコースを選ばせて、中江自身が連れて行ったという。
「どのコースも10万や20万じゃ遊べないところばかりで、学校出たての20代の若造がそんな高級店で遊んだら、すげぇ! と思うわけよ。と同時に、10万円稼ぐのがどれだけ大変なことなのかも実感する。
せっかく手にした大金も、持っているだけではその価値が分からない。要は、お金の使い方の楽しさ、魅力を覚えさせるわけ。お金の面白味を覚えると、お金を稼げばこんなに楽しいことができる、そう思ったやつはトップセールスマンになっていく。僕もずっと営業をやってきたから社員の心理はよく分かる。その心理をくすぐってやれば、若い部下はいくらでも成長していくよ」
「プラスワン構想」
部下の心理を読み取り、手綱を締めたり緩めたり、巧みに掌握してきた中江だが、外見上の好調さとは裏腹に、この頃から内心に不安を抱えるようになっていたという。
「1982年に10倍融資の証券金融業を始めてからは、本当は、僕自身が毎日ビクビクしながら過ごしていた。金融業はグレーだからいつかは叩かれる、規模が大きくなって、世間に注目されればされるほど叩かれるだろう、それでもし会社が潰れたら社員やその家族も路頭に迷うことになるってね」
いつかは問題視される、という本心は誰にも話さなかったが、50人の幹部会議で、ある構想を提案している。それが「プラスワン構想」だった。
「株の世界は先がどうなるかわからん、会社がおかしくなった時のために今から社員一人一人が株以外で自分の家族を養える仕事をちゃんと持っておけ、新しいビジネスのきちんとした考えがあるなら出資してやるから株以外のプラスワンで将来の生活基盤を作れ、そう説明したんだ。
それで幹部たちが色々な事業を始めたので、関連会社がいくつもできた。スナックや割烹料理屋、喫茶店を始めたのもいたけど、結局は株の相場しか知らない連中ばかりだから、投資顧問会社を立ち上げた者が多かったね」
投資ジャーナルの最盛期に関連会社が200社、社員3000人までに膨らんだ背景にはこのプラスワン構想があった。