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「パンツはなんでもいい」藤井猛九段と行方尚史九段が、米長道場で切磋琢磨していたころ

「パンツはなんでもいい」藤井猛九段と行方尚史九段が、米長道場で切磋琢磨していたころ

「藤井猛と行方尚史、二人は戦友」番外編 荻窪居酒屋にて

2021/05/05

genre : ライフ, 娯楽, 芸能

note

思い出は牛糞の匂いと牛の鳴き声とともに

行方 僕んちで将棋指した記憶は2回だけです。

藤井 なめちゃんはよく引っ越したからね。

行方 なぜか部屋にめぐまれなくて。更新したことはほとんどない。

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藤井 牧場の近くもあったね。大泉学園の辺りで、とても東京とは思えない雰囲気。

行方 すごい牛糞の匂いが。

藤井 駅からずっと臭いの漂うところを通って行方邸に行って、そこでVSをやった記憶がある。牛の鳴き声が聞こえてきた。

行方 住んで初めて「あれ?」ってなった。(青森県)弘前より田舎じゃねえかって(笑)。

2020年2月25日、第91期ヒューリック杯棋聖戦二次予選・藤井ー行方戦の感想戦。行方九段が勝ち、決勝トーナメントを決めた

記録係は正座と長時間考える訓練

藤井 VSは連盟でよくやっていた。

行方 今と違って連盟の研究室や、地下のミーティングルームも使えましたからね。

藤井 将棋連盟に行って、空いている部屋でみんなで将棋を指していました。賑やかでしたよ。寝泊まりも自由だったし、酒を飲んでもよかった。

行方 僕は記録をとった後に、米長先生に「君も来なさい」と言われて。A級最終局の打ち上げを5階の「香雲」でやっていたんですよ。みんなで車座りになって中根寿司食べながら酒盛りしていました。

藤井 当時は情報が少ないから、現場で吸収するしかなかった。棋士の話を聴けるのはとても大きかった。

行方 今は記録とらない子の方が多くなっているから。

藤井 記録は全部自分のためでした。正座の訓練と、長時間考える訓練。ミスして怒られても、四段になるための修行と思ってやっていた。棋士になるつもりなら、怒られても悪い気持ちじゃないと思うんですよ。でも仕方なくやっている子は、ムカつくでしょうね。

行方 昔は“藤井猛専属記録係”と呼ばれる子たちが、3人くらいいましたね。今はそういう話を聞かなくなった。

藤井 最近は注意しても不本意という顔をされる(笑)。

行方 記録をとっても、終局が遅くなると先に帰るのを連盟が推奨している。感想戦を観ずに、終電の前に。

「感想戦」は意味がないと思われている?

藤井 我々はその日は泊まって徹夜で将棋指したり、話したりするのが楽しかった。腹が減るとホープ軒でラーメン食って。しかし、それを言ったら今は俺も奨励会員に「先生も感想戦やらないじゃないですか」と言われてしまうけど(笑)。頭にカーッと血が上っているときに、隣が対局中だったら別室に移動するというのが耐えられない。その場でならまだしも、別室で初手からやっていられないですよ。昔は隣が対局中でも、みんな平気で感想戦をやっていました。その頃はソフトなんてないから、その場でやらないとわからないんだよ。

行方 観戦記者のためにやっても、記者もソフトで調べるから、感想戦の意味がないと思われているんじゃないかな。羽生さんは感想戦が大好きだった。

 

藤井 俺も大好きでしたよ。2時間くらい平気でやっていたし、それが当たり前だった。

行方 僕は椅子席移行も反対なんですよ。公開対局は別としても、そんなんじゃ何の情緒もない。

藤井 でも、我々だけなんじゃないの? こんなことに怒っているのは。